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と、ここまでを童磨様本人に伝えてみた。すると彼はいつものように笑って「そうだなぁ」と考えあぐねる仕草をしてみせる。
「俺は君がそんなに望むなら、君のことを食べちゃいたいと思ってるよ」
童磨様の言葉にあたしは嬉しくなる。それなら話は早いと身を乗り出せば、彼はしかしと言った風に頭を左右に振る。
「だけど君は無惨様に期待されている鬼でもある。それを俺が食べてしまうのは無惨様に対する侮辱でもあるだろう」
「確かに…」
童磨様の言う通りだ。ここであたしが(あたしにとっては有意味でも無惨様にとっては無意味に)食べられるというのは、もはや無惨様の望みではなくあたしの勝手な欲望でしかない。仕方ないにしても、叶わぬ想いに心臓が貫かれそうになる。食べて欲しい、食べられたい、それが無理なら指一本程度でも。
「どうでしょう」
「指一本喰ってもいいなら、全部食べたいかな」
思わず差し出したあたしの小指を犬のように甘噛みする童磨様。鋭く尖った歯が皮膚に突き刺さる。その瞬間、背中の奥がゾクゾクと冷たくなった。食べられたい、はやく。今すぐ。
「もしあたしが人間なら食べてましたか?」
「どうかな、食べていたかな。でもきっと君が人間だったなら、君は俺に食べられたいとは思わないはず」
「…そんな、あたしは」
人間でも食べられたい、絶対そう。
「童磨様に食べられたいと言っていたと心から思います」
そんなあたしをみて、彼はクスクスと笑う。やっぱり君はイかれてるなぁ、と。さっさと食べちゃいたいと耳元で囁く。
「どんな味がするんだろう」
想像するだけで
「ねぇ、どんな味なのか教えてよ」
鼻の先をあたしの胸元に押し当てて尋ねてくる。
「…知りたいなら、あたしを食べてください。今すぐに」
早くと言いかけたあたしの口に、彼の指がグッと突っ込まれる。口内に入った指に嗚咽が漏れて、生理的な涙が出てきた。頰を伝った涙をべろりと舐めた童磨様は言う。
「死ぬ間際に俺を呼べよ。喜んで喰い殺してやる」
それは鬼狩りに殺される前に食うぞということか。あたしは笑顔で頷いた。
嗚呼、その日が待ち遠しくて、今にも愛で果ててしまいそうだ。
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作者名:りん | 作成日時:2019年8月19日 13時