遊び歩く言う間も無くずっと【鬼滅の刃】 (ページ1)

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好きな人は鬼 #嘴平伊之助ページ1

好きな人ができた。名前はAという。彼女とは下町で知り合った。黒髪おさげの彼女は団子屋の看板娘で、歳は俺よりも一つ下。俺のことを「伊之助さん」と呼ぶ、とても器量のいい娘だ。だけど彼女は鬼だった。でも何故か彼女からは鬼の匂いがしなかった。俺はそれでもいいと思った。

「鬼なんだろ、あの娘」

団子屋の外にある椅子に座った善逸は店の中で接客をしているAに目をやった後、小さな声でそう聞いてきた。彼女の店で買った団子を手に持っていた俺は浅く頷く。

「すごいな、人間に紛れてる」

その言い草に少しムッとしたが、彼の事だと軽く流した。善逸はAを見つめたまま馬鹿っぽい顔をしてまた口を開く。

「あれで鬼かぁ……」

「…………」

「うーん……」

可愛いなぁとボヤいた善逸を、間髪入れずに拳でボカンと殴った。右手の甲の骨が軋む、思いっきり殴ったからだ。痛いじゃないかと抗議する彼の口へ強引に団子を突っ込んで「うるさいぞ」とだけ返した。

「…………」

途端にシュンとした顔をして見せた善逸は、静かに三色団子のピンクの部分を食べる。
先日、恋心を打ち明ければ炭治郎は俺にこう言った。

『諦めちゃ駄目だ、絶対に治る方法は見つかるさ。俺も禰豆子のことを諦めてはいないし、希望を持っている。だからきっと彼女も、』

長くなりそうだったから途中から聞いていなくてこの辺から思い出せないけど、聞いていようがいまいが同じだと思う。俺は彼女が鬼でもいいから。そんな事はどうでも良かった。Aには両親も兄弟もいないけど、きっと彼女が食べたんだと思う。そんな事もどうでも良いし、彼女が右眼を包帯のようなもので隠していることも気にはしていなかった。

「伊之助さん」

名前を呼ばれて、俺は後ろを振り返る。着物を着たAがにっこりと笑って俺を見下ろしていた。

「お茶のお代わりはいかがですか？」

彼女はいつも背後からくる。しかも気配を微塵も感じさせない。俺は頭を左右に振って立ち上がった。

「また来る」

最近団子屋の近くで人が鬼に喰われたらしい、所詮噂話だ。善逸は団子の串を口に咥えたままAに手を振る。頭を小さく下げた彼女から鬼の匂いはしない。

「伊之助さん、また会えるのを楽しみに待っています」

そう言って微笑んだ彼女の八重歯は鋭く尖っていた。俺の好きな人はきっと鬼だ、俺はそれでも良いと思っている。