# 何でも知ってる ページ11
喜びを隠し切れずに、もはや隠す事など無いというテンションであたしは俯いたまま笑う。最高の一日の始まりだと小さく呟けば、ドンと背中に軽い衝撃がした。
「なに一人でヘラヘラしてるん」
その声と言い草で今度こそ将暉と確信したあたしは、振り返らずに「痛いなぁ」と唇を尖らせる。
「遠くから見たらやばい奴」
淡々と言いながら隣で靴を履き替えたのは予想通り将暉だった。さっき肩を叩かれた時、将暉かと間違えたけど、そもそも将暉はあたしの肩を優しくトントンなんて叩いたりしない。
「いいよ。別に誰も居なかったし」
「涼真と話してたんやろ」
「観察してたの?」
「アホか。こんなとこにおったら見たくなくても目に入るわ」
吐き捨てるように言った彼はあたしを置いていく。待ってよと急いで靴を下駄箱に突っ込み、走って彼の背中を追った。隣に並べば、彼はチラリとあたしに目をやる。
「どうせ涼真に連絡出来んかったんやろ」
「あれ、凄いね。なんで分かったの」
階段を一段飛ばしで駆け上がる彼の言葉に驚くあたし。すると聞いてきたくせに、ビックリした顔で「そうなん」と声を上げた将暉。その様子にあたしは溜息を吐く。
「…カマかけたな」
「まさかほんまにしてへんとは思わんやん」
「昨日の夜、めっちゃスマホと相談したんだよ。LINEの送り方とかネットで調べてさ、それでも結局送れなくて」
「サッカーの話でもしとけばええねん」
「適当過ぎ、それだけじゃもたないよ」
あまりにも雑なアドバイスへ、気怠げに返事をしながら将暉の後頭部を眺めた。
将暉はいつも始業ギリギリでのんびりと学校に来る。今朝も同じようにゆっくり起きて何もしないで家を出たのか、襟足にちょこんと寝癖がついていた。
「後ろ、また跳ねてる」
あたしは笑って、シャツに沿って癖のついた襟足へ手を伸ばす。後ろ髪に触れた瞬間、パシッと手を払いのけられた。その勢いに一瞬思考が止まったが、こちらを見た将暉が普通の顔をしていたので直ぐに平常心を取り戻す。
「くすぐったい」
ぽつりと呟いて、うなじの辺りをぐしゃぐしゃと掻いた将暉。
「寝癖ついてたから」
「時間無いねん」
「早く起きればいいじゃん」
「嫌や。髪セットする為だけに起きるとか」
瞼をこすった彼はあくび混じりに言った。らしいなと思いながら色んな方向に向いた襟足を見つめる。払いのけられた指の先に、じんわりと熱が集まっていた。
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作者名:りん | 作成日時:2018年10月8日 15時