藍色 ページ32
「... ...マサキ君...」
何か言いたそうに口を開いたAさんを無視するように、素早く離れた。
体制を直しながらバッグを持ち直し、ドアへ向かって走った。
「...ねえ、ま、マサキ！」
君、抜けてますよ。なんてな。
いつもなら嬉しいくらいの静止を、今だけは乱暴に振り切って
静かな廊下に飛び出した。
「行かないでよ！」
ドア越しに、愛しい人の声が聞こえる。
それは、常に俺を支えてくれて、優しく包んでくれて、温かくて
でも、だけど、その声は、姿は、心は、俺のものにはならない。
どうしてもあの人には勝てなかった。
夕焼けは、いつぞかのように藍色に飲まれかけている。
それをなぞる様に廊下を歩いた。左端で、ただ静かに。
耳を澄ますと、まだAさんの声がする気がした。もう結構離れているのに。
一人きりの廊下は、静かだった。
その静寂に混じるように、こつこつともうひとつの足音が聞こえた。
「狩屋」
突如名前を呼ばれ、驚いて振り向くと、見覚えが有る姿がそこにいた。
青い髪、オレンジの瞳、華奢で白い身体。
「...風丸、さん」
「予定より早く着いてきたんだが...Aの見舞いか」
「...ええ、まあ。そんなところでした」
偉いな、と風丸さんは綺麗な顔を柔らかく崩して笑った。
...今までに感じていた対抗心や嫉妬心が、まるで嘘みたいだ。
でもこんなに心は重い。
「もう帰るのか」
「暗くなると、帰れませんから」
適当な理由をつけて、俺は後ずさった。...今だけは、顔を見ていたくない。
すると風丸さんは、じっと俺を見てから
「...じゃあ、俺もAの診察に行くよ」
[気をつけて]というと、くるりと回って廊下の奥へと歩いてく。
真っ白な白衣は、やっぱり届かないような気さえした。
もう一度、廊下を歩き始める。藍色は、さっきよりも増して強くなっていた。
.
.
.
「...ただい、ま」
玄関を開けると、俺を待ち構えていたかのように、ヒロトさんが座り込んでいた。
廊下の時計は７時すぎ。いつもはこんな時間に帰らないからか、と思い
「すいません」
と、謝った。...流石にヒロトさんが蒔いた種とは言え、遅れたのは申し訳ない。
しかし、ヒロトさんは静かに首を横に振った。いかにも、不機嫌そうに。
「諦めるんだ」
ドキッとした。本当に心臓が何かで思いっきり叩かれたんじゃないか、ってくらい。
恐る恐る顔を見ると、怒っている、というより悲しそうな顔で。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜月桜 - な、泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。 小説でこんなに感動したことないです(>_<) (2017年3月29日 20時) (
レス) id: 889de71093 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» こちらこそよろしくお願いします！よろしかったら他作品もよろしくお願い致します。 (2015年1月3日 20時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - よろしくお願いします! 更新頑張ってください!! (2015年1月3日 16時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» コメントありがとうございます！もうすぐラストなので、この雰囲気を保ちつつ納得がいくエンドをかけるよう頑張りたいです。更新も張り切りますので今後もよろしくお願い致します。 (2015年1月2日 15時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - すごく良かったです!読んでるとき涙がでてきてもう大変でした笑 更新待ってます＾＾ (2015年1月2日 15時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：佐奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/e2e95d529a1/
作成日時：2014年9月20日 20時
