-イナGO- 私は小さな猫を愛した。 -狩屋マサキ-

夢の中で　*マサキ ページ23

そよそよと何処からか柔らかな風が吹いてきて、肌を撫でた。

閉じていた瞼の奥に、仄かな光を感じて目を開くと





いたはずの部屋とは違う光景が、広々とそこにある。

そこから一瞬で悟る。というか、そう理解するしかなかった。

夢だ。俺はきっと夢を見ているんだ。



そう思っていると、カチカチと何か軽い物がぶつかり合う音が近くでする。

その方向へ勝手に視点が移動した。真っ白い毛糸玉と、それから出た細い糸が上へ。

ちょうど見上げたところで視点の移動が止まる。




「ああ、マサキ君。起きたの？」

糸を手繰り寄せていたのはAさんだった。

ここまで鮮明だと、これは過去の記憶かも知れない。淡々とそう考えていると

Aさんは嬉しそうに長く編んだ白いマフラーを見せて





「もうすぐ出来るから、楽しみにしててね。きっと温かいよ。

秋が来たらあっという間に寒くなっちゃうから...次は手袋も編まなくちゃ」

と笑った。



またゆっくりと風が流れてくる。今より少し冷たい風だ。

ぽけーっとAさんを見上げていると、何がおかしいのかくすぐったそうに笑った




「マサキ君、」

そう俺の名前をぼそっと呟くと、手を止めてぐっと頭を下げてきた。

視界がAさんで埋まるくらい近づく。呼吸が頬や鼻に触れるくらい。

そっと俺の前髪を横に撫でてずらすと、





静かに、額にキスを落としてくれた。

俺自身行動が理解できないうちに、Aさんは顔を上げ

「傍にいてあげられなくて、ごめんね」




と、唐突に謝りだした。その言葉にまた混乱する。

「でもね、君のこと...な...」




まるでノイズがかかったように声が聞こえなくなる。視点がゆらゆらと勝手に揺れた

状況が、意図がまるで理解できない。

夢の意識なのか、過去の記憶のものなのか、体がやっと持ち上がった瞬間





「...う、ああ」





Aさんの編んでいた真っ白なマフラーに、赤色が垂れた。

椿よりも濃くて、夕焼けより鮮明な赤。

それは留まる事なく貴方の柔らかな唇から決壊したダムの水のように溢れ出た。







なんで、なんで。

Aさんの肩を必死に叩く。揺さぶる。声をかける。...返事がない。

息が苦しかった。理解できないのと同時に何もできないという虚無感が俺を挟んだ。

どうしたらいい、どうしたらいいと強く目をつぶった瞬間







コンコン、とまた熱のないノック音が頭の中に響いて目が覚めた。

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