手術 ページ39
部活が終わり、藍色の街路を走りきった俺はやっと病院に入った。
いつもよりそこは静かで、誰もがあの人の手術を見守るような錯覚さえ感じる。
もう手術はいくらか進んでいて、風丸さんがAさんを切り開いているはずだ。
固く冷たい病院の床をかつかつと歩く。こんな憂愁が滲む場所だっていうのに、やけに軽い音で。
壁に取り付けられていた案内板を見て、長い廊下を二三回ほど曲がると手術室前に来た。
勿論そこにはヒロトさん達が座って手術の成功を祈っている。ふと、玲名さんが顔を上げた。
「狩屋...来たのか」
その声につられるようヒロトさんと瞳子さんが俺を見る。はい、とだけ返して三人に歩み寄った。
手術室の扉の上に取り付けられた【手術中】のランプは、真っ赤に燃えるように明るい。
あの人の綺麗な髪色に似ている。こんなこと考えるなんて、本当に緊張してないんだな、俺。
瞳子さんに催促され、俺はヒロトさんの隣に座った。一番手術室に近いドアだ。
隣ではヒロトさんが視線を泳がせたり、ぐっと俯いて組んだ手を額に当てていたりした。
「あとどれくらいで終わりますかね」
「... ...悠長だな」
ヒロトさんは若干の苛立ちと呆れを見せて俺に返答する。流石に失礼だろうか。
失敗とか成功とか、考えてないから言ってしまった。不思議と不安な気持ちなど微量もない。
ただ自分は待っている。風丸さんが笑って[成功した]と言ってくれるのを。
Aさんが静かに笑って、[心配かけてごめんね]と言ってくれるのを、待っているだけで。
「だいぶ長引くとは思うけど、大丈夫？」
「...大丈夫です」
「なら良かったわ」
顔を俯かせるヒロトさんに合わせて、俺も目を瞑った。
瞼の裏に映ったのは、真っ赤な金魚の尾鰭。もとい、風に揺れるAさんの髪だ。
触れられそうなほど優美なそれに手を伸ばした、はずだったけど。
目を開くとそれを考えていたことさえも一瞬忘れてしまうくらい、薄い思い出だった。
手術室のランプは、まだ燃えている。
.
.
.
壁にかかっていた時計は、もう12時を過ぎそうだった。それくらい、手術が続いている。
気が遠くなるほど長い時間のはずなのに、何故か【退屈】だとも【面倒】だとも感じない。
「... A...」
ヒロトさんが弱々しく声を上げた。流石に耐え切れなくなったのか、表情が今にも崩れそう。
しかし、その声があがって数秒もしないうちに、[手術中]のランプの色は燃え尽きた。
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夜月桜 - な、泣ける。・゜・(ノД`)・゜・。 小説でこんなに感動したことないです(>_<) (2017年3月29日 20時) (
レス) id: 889de71093 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» こちらこそよろしくお願いします！よろしかったら他作品もよろしくお願い致します。 (2015年1月3日 20時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - よろしくお願いします! 更新頑張ってください!! (2015年1月3日 16時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
佐奈(プロフ) - Mmさん» コメントありがとうございます！もうすぐラストなので、この雰囲気を保ちつつ納得がいくエンドをかけるよう頑張りたいです。更新も張り切りますので今後もよろしくお願い致します。 (2015年1月2日 15時) (レス) id: 2725121de3 (このIDを非表示/違反報告)
Mm - すごく良かったです!読んでるとき涙がでてきてもう大変でした笑 更新待ってます＾＾ (2015年1月2日 15時) (レス) id: 5a5650f5d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：佐奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/e2e95d529a1/
作成日時：2014年9月20日 20時
