思い出のクッキー 〜1〜 ページ4
『それでは最後にデザートですが…』
ジェイドが一言言った直後、フロイドを見た。
散々お酒を飲んでいたにも関わらず、フロイドがすっと立ち上がった。
「フロイド君？」
「うん。ちょっと待ってて」
フロイドはしっかりとした足取りでそのままジェイドの元へ歩いて行く。
ゲストもフロイドに注目し、会場内が静かになった。
『デザートももちろんAがプロデュースしてるんだけどぉ…』
フロイドがマイクを持って話し始めた。
「フロイド君…」
Aは高砂から一人フロイドを見つめた。
『そのデザートの後にぃ、コーヒー、紅茶、カフェオレがサービスされるでしょ？オレはカフェオレ〜』
『ふふふ。僕が厳選した茶葉を使った紅茶もオススメですよ』
フロイドとジェイドがそれぞれアピールする。
『でね…』
フロイドがまた話し始めるとスタッフたちが大きいタッパーを各テーブルに持って行く。
「何あれ…」
Aが呟くとスタッフがAの前にも少し小さいタッパーを置いた。
「えっ……。これ…」
『A〜。覚えてる〜？このタッパー』
Aは一気に涙が溢れた。
あまりにも胸がいっぱいで返事がすぐに出来ず、こうこくと頷いた。
忘れる訳がない。
フロイドが両目を失った時、ジェイドと２人で作ったクッキーをフロイドの所へ持って行くのに使ったタッパーだ。
『オレが両目を失った時さぁ。このタッパーにクッキー入れてオレのとこに持って来てくれたじゃん。色んな形したクッキーでさ。目が見えなくなったオレと形当てしたでしょ？結構当てるの難しかったよね〜。ジェイドも一緒にいてくれてさぁ。オレと一緒にカフェオレ飲んでくれたよね〜。あの時…、あのクッキーがすげぇ美味しくて、嬉しくて…、目が見えなくなった怖さを吹き飛ばしてくれたんだよね』
タッパーの中には当時と同じ形をしたクッキーがたくさん入っていた。
『でぇ、今日までそんなオレをずっと支えて来てくれたAになんかしてやりたくてぇ、ジェイドとこのクッキー作ろって決めたの〜。これ、Aへのサプライズだよぉ〜』
「フロイド君っ……」
『A〜、本当にさ、オレのとこに来てくれて、ずっと側にいてくれて、本当に本当にありがとね。これからもずっと一緒だよ〜』
「うんっ……」
会場からは涙と拍手が溢れた。
「ふたりにそんなエピソードがあったなんてっ」
おばちゃんたちは号泣していた。
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作者名：魅樹 | 作成日時：2023年6月15日 10時
