ズルい気持ち ページ9
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『ご迷惑おかけしました。』
「本当に心配したんだから…。もう仕事は無理せず休んだ方がいいんじゃない…?」
『あー…でも…』
「ダメ。ステージに立つのは辞めてください。事務所でのレッスンとか、制作も数を減らします。」
退院後に、事務所へ向かい、スタッフさんに挨拶をしていると、今後の仕事について制限されることを告げられた。
『…そんな…』
「これは、ケンチさんの意向もあります。Aちゃんには、今後もウチで活躍していってもらいたいから、今は、体調を整えて、元気に復帰してきてもらいたいんです。」
そう言われ、何も言えずに、ピアノの部屋に逃げ込んできた。
ポーン、ポーン…と鍵盤を叩くと、お腹がリズムに乗って蹴られる。
あぁ、ケンチさんと私の子どもだなぁ…と実感する。
大切な大切な、2人の宝物。
私が無理をすれば、この子に影響も出てしまうし、ケンチさんも悲しませてしまう。
でも。
「…Aちゃん?」
『あ…陸ちゃん…おつかれさま。』
「外から電気ついてるの見えて、思わず開けちゃった。久しぶりですね、ここにいるの。」
『あー…っと、用事があって。』
「あ、今日カズマのレッスン?」
『違うよ。事務仕事。終わったから寄ったの。』
「え!じゃあAちゃん、この後暇ですか?!」
『え?あ…うん。暇、です。』
パァッと表情を明るくして尋ねてくる姿も、暇だと返答した後の嬉しそうな姿も、大きな犬が尻尾を振ってるように見えてくるから、可愛く思える。
「じゃあ、俺にもピアノ教えてください!」
突然のお願いは、私を驚かせるものでもあったけど。
「あ、でも体調…大丈夫ですか?無理させちゃいますよね…?」
しょんぼりと耳や尻尾を垂らしたような、残念そうな表情で言った言葉が、タイムリーなもので、ツキリと胸の奥を突かれる。
『…ねぇ、陸ちゃん。大好きなお仕事と、大切な大切な宝物と…大好きで、大切な人から天秤にかけられたら…陸ちゃんは、どっちを選ぶ?』
ポーン、と鍵盤に触れながら、顔も見ずに、陸ちゃんに尋ねる。
きっと、困らせてる。
そんなことは分かってる。
だけど、行き場のない想いを、どうにかしてほしくて。
縋るような気持ちで、彼に、そう尋ねた。
私を慕ってくれている彼なら、きっと私を救ってくれる。
そんなズルい気持ちを持ちながら。
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ユキ(プロフ) - 久しぶりの更新ありがとうございます(*^^*) (2021年9月30日 21時) (レス) id: e86d7cf610 (このIDを非表示/違反報告)
rhszh(プロフ) - 更新ありがとうございます!早速読みました!最高です!お誕生日おめでとうケンチさん! (2021年9月30日 0時) (レス) id: e78e4a67b5 (このIDを非表示/違反報告)
きき(プロフ) - にゃんちゅうさんの小説大好きで何回も読んでいます!赤ちゃんも産まれてこれからどうなっていくのか続きが楽しみです! (2021年4月9日 0時) (レス) id: 1cb6a41e93 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - キャー(/▽\)♪ (2020年9月30日 7時) (レス) id: 5f63e3cc55 (このIDを非表示/違反報告)
きくりん(プロフ) - あらあらケンチさん鋭いですね。啓司さんとケンチさんの中が悪くなりませんように (2020年9月7日 0時) (レス) id: 97f67c1a4a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:にゃんちゅう | 作成日時:2018年12月16日 0時