【銀魂】アオハル

027 ページ29

.


これは本当に緊急事態だ。

そしてそれは、これまで至上最高にピンチなシチュエーション。目の前には総悟の不敵な笑みが。そしてどうやら、つい先刻大胆不敵に自分が発してしまった言葉が総悟の燃え滾る対抗心やら自らが尊ぶドS心なるものに火をつけてしまったらしくて。売り言葉に買い言葉で此処まで事態を運んでしまった私にも責任はあるが、もう引き返せない。総悟に身を委ねるように重心を前に傾かせながら、その寸前で「嘘に決まってるだろィ」と言う言葉を期待して。けれど、このままキスをするのは嫌ですか?と問われればNOとは言えない。このどっち付かずの中途半端な感情の正体は未だ解せないが。

けれど、刹那の戸惑いをばっさりと斬り捨て決死の覚悟で思わず目をぎゅっと瞑って……。ドクンドクンと五月蝿く脈打つ心臓を握り潰したいような感覚に駆られながら、ふと冷静な自分が顔を出した。胸の裡で問うてくる。

……それでいいの?この関係を壊してもいいの?
……もしこのままキスしたら、幼馴染には戻れないんじゃない?

その答えを導きだす半瞬前。なんの前触れも脈絡もなく、ちゅ__と柔らかな感触の何かが唇に押し付けられた。初めての、未体験のそれは言葉に形容できないほど甘くて。蕩けるようで。今の今まで18年間、少女漫画やら何やらでこう言ったシーンを古今東西散々見てきたが、実を言うとこれが初めてなのだ。

背を這う甘美な戦慄が現実味を帯始めた頃、突然鼓膜を叩いたシャッター音で微睡んでいた意識が我に返った。

それに続いて思わず総悟の胸板を押し返せば、同じくして我に返ったような強張った表情でその瞳に怒りの色を湛えていた。やらかしてしまったのかと一瞬たじろぐも、怒りの矛先が向けられていたのは私ではなくて。正確には携帯を片手にニタニタとニヤついている神威に向けられていて。その様から、恐らく神威が写真でも撮ったのだろうと憶測をたて、私が鋭く問おうとする──よりも早く、総悟が口を開けた。

「何撮ってるンでィ」

「あはは、あんまり楽しそうだからつい、ね」

「今すぐ消せ」

「それは聞けない頼みだなァ」

本当に意図の読めない神威に総悟が突っ掛かるも、見事にひらりひらりと言葉巧みに躱されていて。苛立ちを隠すことなく剥き出しな総悟を尻目に、私はふと時計を見上げた──のとほぼ同時に、第四者の声が轟いた。

「授業サボっておいてこんなやらしーとこでランデブーたァいい度胸じゃねェか」


.

028→←026　沖田side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す