No.034 ページ35
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私の財布がかなり軽くなり、無一文と化してきた頃に無事店から脱出できた。いや、もう色々な意味で終わったのだけれど。財布も私の学校での評判もがた落ちだ。妙な噂がたってしまっては堪ったものではない。
「時間も遅いですし、早く帰りますよ」
「んー、もうお腹いっぱい……」
「貴方は食べ過ぎです!」
カツンカツンと怒りを踏みつけるように踵でコンクリートの廃れた地面を歩いていると、スタスタと後ろをついてきていた神威が。
「怒ると皺が増えるらしいよ?」
「その言葉が私の怒りを買っているんですけど」
「足場踏み外すと危ないよー」
口を噤み静かに携帯を弄っている沖田さんをチラリと一瞥して、少しだけ大股で歩を進めると。先の神威の宣告をちゃんと聞いていれば、気に掛けていれば。もう少し警戒していればよかったのだが。
不意に、何かに蹴躓く。ぐらりと体重が前にのし掛かり、思いっきり盛大に転びかけて____
「うわっ、引っ掛かってやんの。だせー」
「おおお沖田さん!何してくれてるんですか!!」
「……ちょっとした悪戯?」
運良くも顔面から突っ込むことは避けられた……が、今の私には顔面蒼白と言う言葉がお似合いだ。何せ、息の根が途絶えたのではと自分でも不安になるほど呼吸が浅かったから。それが沖田さんが意地悪くも私の足を引っ掛けようとしてきたので、思わず喚くように反論して、少し痛い目に遇わせてやろうと決意して。
「……ん?」
「どしたの?」
「……何か、立てません」
「もう少し詳しく」
「理由は解りませんけど、腰が抜けて力が入らなくなったって言ってるんです」
からかう神威に事情を説明すると、あとシェアハウスまで少しなのにタクシー呼ぶ?何て訊かれてしまった。気を遣ってくれているのだろうが、このままでは財布が本当に軽くなってしまうので。
「で、できればその、肩を貸してほしいんですが……」
おずおずと申し出れば、合点が合ったと言いたげな神威。そんなことより早く家に帰りたいのだが……とぼやいていた、その時だった。途端、両脇の下に腕を回され、引き摺られるように無理矢理立たされる。それが視界に映っていない沖田さんが起こしたら行動であることに安堵する暇もなく、「えいりゃ!」と妙な気合いが聞こえて。そして……
「お、沖田さん……?」
沖田さんに背負われるようにして、緩慢に揺れる。それが彼なりの気遣いだと知るよりも早く、一言。
「悪かったっつってンだろィ」
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あるの(プロフ) - ささかさん» コメントありがとうございます、ささかさん!いつまでも待っていて下さるのですか?!ありがとうございます^^はい、できるだけ早く続編を作り直しますので、それまでは暫しお待ちください! (2018年1月6日 16時) (レス) id: 26476dfb48 (このIDを非表示/違反報告)
ささか - 作者さん、色々とお疲れ様!でも私はいつまでも待ってますから!ゆっくりでいいので続編作るの頑張って下さい! (2018年1月6日 15時) (レス) id: 94a7e06d27 (このIDを非表示/違反報告)
霰@あるの(プロフ) - たらぴさん» コメントありがとうございます!はい、念願の初殿堂入りを果たすことができました…!応援までありがとうございます^^たらぴさんのお言葉には励まされるばかりです! (2017年12月24日 17時) (レス) id: 26476dfb48 (このIDを非表示/違反報告)
たらぴ - 殿堂入りおめでとうございます!これからも頑張って下さい(^^)/応援してます! (2017年12月24日 17時) (レス) id: dcfd3554f9 (このIDを非表示/違反報告)
霰@あるの(プロフ) - 高杉るなさん» 了解致しました^^ご提案ありがとうございます!高杉さんと遊園地…とても素敵なお話ですね!できるだけ早めに執筆致しますので、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです! (2017年12月6日 7時) (レス) id: 26476dfb48 (このIDを非表示/違反報告)
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