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総統閣下 ページ9

いつもゆったりとした時が流れるラインク村だが、今日ばかりは(みな)朝から村中を走り回っている。

私はと言えば、普段は着ないワンピースを身にまとい、声色や喋り方を変える練習をしているところだ。

『アー、あー、あ"ー......
 ワタ、私はエリザベス、えりざ、エリザベスです』
子「Aさん!そろそろ.......
  まだ練習しとったん?」
『す、少ししか練習してないぞ?さっきまで私の持ち場の掃除やら装飾やらしてたからな』
子「そうなんや〜。
  って、こんな事しとる場合やない!もうすぐそこまで総統閣下がいらっしゃっとるで!
  俺先行くから、Aさんも早く!」
『もう!?
 分かった、すぐに行く!』

前世以来の変装だったから、思ったより時間が掛かってしまった。変装と言っても、服と声を変えるだけなのだが。

まあ、それで十分だろう。彼等はきっと、私なんかの外見なんて覚えてないだろうから。

女「Aちゃ.......ん"ん"!
  エリザベスちゃん!もう馬車が見えとるよ!」
『本当ですか!?遅くなってすみません!』

成り切れ。

彼等が憎むA・ライターでも、その生まれ変わりであるA・ヴァーハイトでもない、ただの村娘に。

深く深く息を吸い、肺が空っぽになるまで吐いて、吐いて、吐き尽くす。

ピリッとした緊張感が辺りを包み込む頃には、この村からAという人物はいなくなった。
そして、私が完全にエリザベスとなった直後、黒塗りの高級そうな馬車が村の入り口に到着する。

その間たった数秒の事なのに、もう自分の作戦の誤算に気付いてしまった。
気が動転し過ぎていた。普段の私なら、考えられたはずなのに。

この村に来るのが、総統だけではないかもしれないという事を。


歓声に応えながら御者席を降りる、緑のツナギを着たフードの男。
その男が、金の装飾が施された馬車の扉を開ける。

そこから、3人の男が、ゆっくりとラインク村に足を踏み入れた。

赤いマフラーをした、眼鏡の男。

トルコ帽を頭に飾った、糸目の男。

そして、目が眩む程に美しい金髪の男。


グ「初めまして」


そのバリトンが乗せる言葉を聞こうと、今まで多種多様な歓声を送っていた村人達が一瞬で押し黙る。

立っているだけで人々を敬服させるような、この威圧感。
作り物のような、あの端正な顔立ち。
何年も聞いていた、各々の癖のある足音、歩き方。

今私の前に立つ彼等は、紛れもなく、前世で私を憎んでいた“彼等”だった。

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とうみん(プロフ) - あなたの作品は情景描写がとても綺麗で、つい作品の世界観にのめり込んでしまいました。有名な小説家にも文才などありません。何度も何度も書き直してやっと傑作が生まれるのです。偉そうなことを言ってすみません。とてもおもしろかったです。ありがとうございました。 (9月3日 18時) (レス) @page36 id: a126db2d2e (このIDを非表示/違反報告)
るる - 読んでいてとても面白かったですよありがとうございます (2022年12月25日 16時) (レス) @page36 id: a2a90b5064 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - またいつか、続きを書く気持ちが湧いたならどれだけ時が経っていようとも、遠慮せず作品をまた更新してください。どうか、貴方様の作品を心の底から待っている人がいることを忘れないでください。本当にありがとうございました。コメント2つもしてすいません! (2022年8月17日 12時) (レス) id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - 打ち切りの言葉にはショックを受けましたが、読んでいるだけの私には分からない作者様だけの事情もあると理解しました。面白く、読みがいのある作品をどうもありがとうございました。 (2022年8月17日 12時) (レス) @page36 id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
Ajisaaaai(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました (2020年12月3日 8時) (レス) id: 4585525dae (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:クレア | 作成日時:2019年10月26日 16時

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