第35話 エースストライカーの離脱 ページ35
よく見ると、振り返った豪炎寺君の目は悲しみの色を帯びている。
わずかに涙を溜めているのを見て
私はムッとしながらずかずかと、更に彼に歩み寄る。
また驚いた豪炎寺君に肩にかけていた荷物を押し返した後、
無理やり肩を掴んでむこう側を向かせた。
そして、自然と彼の背中に両手をつく形になる。
「悔しいって、悲しいって思うんなら、帰ってきなよ」
「…………」
「嫌でも監督を頷かせるくらいに強くなってきてよ。
……今だけなんでしょう」
私たちと戦えないのは。と心の中だけで続ける。
でも、きっと彼になら伝わったはずだ。
私の言いたいことが。
「何日、何か月かかっても、私が認めるくらいには
強くなって戻ってきなよ。豪炎寺君」
「…………ああ」
小さく頷いた彼は、ゆっくりと
目の前の階段を下りて、この場を去っていく。
……それにつれて、そっと、私の両手が彼の背中から離れた。
「豪炎寺ッ……、絶対! 帰って来いよーッ!」
私の隣で、無理に笑顔を作った守が声を張って言う。
彼にまとわりつく問題……。
瞳子監督は、知っているのだろうか──
〜･〜･〜
あれこれしていれば、もう夜になってしまったようだ。
頭上には星空が広がっている。
「監督、なんで豪炎寺を追い出すんですか!」
「必要ない。ただそれだけよ」
再び戻って来た監督に染岡君が言うも、
全てそれで一蹴されてしまう。
しかし、彼らが真に求めている答えは、
きっとそれではない。
「っ……あのなあ!!」
「もうやめろ」
殴り掛かる勢いだった染岡君を、
そばにいた有人が肩を掴んで止める。
「Aも言っていただろう……。
そんなことをしても、豪炎寺は戻ってこないぞ」
「…………染岡」
一之瀬君に呼ばれ、振り返れば、
無言のままの頷きを返され。
染岡君はやりようのない怒りを地面にぶつけた。
「ッ……くっそ!!」
「あっ……Aさん、円堂君」
目金君の声に振り返ると、その先には二人の姿。
どこにも豪炎寺君の姿は見当たらない。
「二人共、豪炎寺は……」
一之瀬君が問うも、私はみんなの傍らを通り過ぎながら
ニコリと、横目で一瞥するだけにする。
彼女は監督に呼ばれていたのだ、と
一行は思い出すと、守へと視線を移す。
「……行っちまった」
「なんで止めなかったんだよ!?」
「……あいつは絶対、戻ってくる……」
そういう本人が辛そうに顔をゆがませているのを見れば、
染岡君も怒りが失せてしまったらしい。
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作者名：フェイル | 作成日時：2014年8月1日 0時
