0時の水槽、溺れる魚【天谷奴零】

手付金を落とす街 ページ23

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この日は一段と夜風の荒れる訝しげさだと身を持って感じた。心無しか月明かりも格別に物騒な予感がしてならない





＿＿ここオオサカの、石畳をローファーで音を叩きながらすっかり体が覚えてしまった道筋を無意識であろうとも見えない糸に引っ張られるようにいつもの場所へと歩を歩めた



オオサカ独自の喧騒から一つずれたその隣にある、意外にも人目を憚りそうなモダンのオートロックを前に閑静に佇んだ





手の甲の、突き出た骨の関節で3回





一定のリズムを保ってこちらの存在を示す如くノックする




二重にも三重にもなる鍵が外れる音がし、目的の人物の登場を勿体ぶった瞬きで心待ちにしたのだが＿＿




それは期待なる積み上げた積み木がガラガラと崩れ落ち、思わず顔に出たのを出所の相手は眉を潜めて息をついた





「ほんま悪かったな俺で。お目当ての零ならおらんで」




モダンな玄関扉とは対照的に、室内の暖色を覗かせてそう言い放つのは他の誰でもない簓さんだった




この人には以前からあまり言い顔されていないのは手に取るように分かるのだが、水族館の件から一際敬遠されてるのだ。彼に対して、嫌い、なんて興味の感情を持ち合わせていないが苦手である事に違いなかった




『...そう、ですか。度々お邪魔しました』




零さん居ないなら用無し、彼にもその心情は知られており腰を折って一礼し踵を返したところで「まぁ待てや」と謎にも引き留められる




「どうせ零おったら2、30分ばかり談話するつもりやったんやろ？少しの立ち話ぐらい苦にせんといてな」




彼の、主旨は理解出来ようとも中身の全容は図り知れない。黙って足を留める事数秒。簓さんがおもむろに取り出した煙草にライターから生まれる真っ赤な火を灯した事で一気にグンッと現実に戻された





「...金、貸したろか。」



『え？』




簓さんが吐き出す煙よりも、その達者な口から吐き出された思わぬ言葉に漠然とした不安がよぎる




「アンタが望むんやったらいくらでもえぇで、出る金は俺の懐やから。あ、でも零には内緒にしたってな？」




ペラペラと矢次早に出てくる単語単語に頭が追い付かなくなる




『あの、何でお金なんて＿＿』




一度は意味を汲み取ろうと何度も何度もその言葉を脳内で巡回した。結果、果てしなく正解らしき答えが見つからないので真意を求めた



だがそれは、知ってしまうには自分があまりに子供過ぎたのだ








「＿＿賄賂や」

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