毒と痛みと愛情と。【死柄木弔】

これから�Α� ページ42

「アタシこれが無理ならもういらないから…ひとつだけ。お願いがあるの」

急に真面目な顔に、でも頰を染めて言う。

「何だ」

「あのね…1日1回…ううん、弔君が、アタシが今日は役に立ったって思う日だけでいいの」

「だから何だ。先に言え」

「ごめんなさい…えっと…ハグ…」

「は？」

目が点になる。
こいつ今何て言った？

「は？お前、今何て…」

「は、ハグって言うか…うん、抱きしめてほしいって言うか…あぁでもそうよね、嫌なら本当いいわ。アタシ弔君がたまに触れてくれるだけで幸せだもの、本当気にしなくても…いいわ…」

目を伏せ、頰を赤く染め指を交差させる。
こいつもやっぱり餓鬼か。
だけど、これ以外いらないと言うならしょうがない。

「……わかった…」

「え！？」

「うるさい、何度も言わせるな、いいって言ってるんだよ」

俺がそう言うと、業は顔をパアァと輝かせた。

「いいの！？本当に！？ありがとう！」

その勢いに俺の方が飲まれてしまう。

「…あぁ」

段々と業の表情がふにゃりと崩れて、「ふへへ」と妙な声を出して笑う。

「気持ち悪っ！何だお前」

「もっと罵倒していいわよ！」

「気持ち悪！！」

あぁなんでこんなことになったんだ。
別に俺にはそんな気なんか全くないんだぜ？
おいそうだろ？俺。
調子が狂う。やめてくれ。

どうして俺なんだ。

「ねぇ、今日1回だけ抱きしめて」

「今日の働きはお前の元クラスメイト2人を倒しただけだが？」

「じゃあダメ？」

「…わかったよ」

あぁあぁ、調子が狂う。
本当めんどくさいものだな女って。
どんなに残虐でも女ってこういうものか。

俺の承諾に、嬉しそうに頰を染め、両手を広げる。

「弔君、来て！」

「あー…はいはい…」

渋々業の背中に手を回す。
あれ、こいつこんなに小さかったっけ？
俺の抱くこいつの肩があまりにも小さくて。

「ふふ、ふふふ」

「うわ、何その笑い方、気色悪」

「何とでも言っていいわ、今すごく幸せだから」

その言葉に嘘は感じられず、業は俺の胸に顔を埋める。

「っ…」

「弔君、好き」

「知ってる…」

まるで安っぽいメロドラマだ。
髪から立ち上る女特有の匂い。
押し付けられている故に当たる膨らみ。
はっきりとわかるこいつの心拍数。

くだらない恋愛要素だってのに実際。
何でだろうな。

今煩いぐらいに鳴ってる心臓の音は、どちらのものなのか俺にはわからない。

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