物語の始まりだ (ページ4)

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第4話ページ4

すると、その監督は少し頭を悩ませてから、Aの手を握る。
もちろん、その意味が分からなくて、Aの頭の中は「え？何？」と
軽くパニックになりかけた。

「ねぇ、劇団のマネージャー、とか興味ないかな？
　ほんのちょっとでも演劇経験がある子が欲しいの。」

そして、言われた言葉がこれであった。Aは、「マネージャー」という言葉を
幾度か頭の中で復唱するが、なぜそうなったか意味もわからない。

ただ、目の前の彼女の様子からして、Aは相当切羽詰まっているように感じ、
了承しかけたのだが、何にしろこれだけは聞いておきたかった。

「あの、マネージャーということは、板の上には立たなくていい…ってことですよね？」

「もちろん。人が足りないから、客演には出てほしいところだけど
　さすがに無理に、とは言わないよ。」

板の上に立たなくていい、と言われてAはホッとする。
そして、こう思った。

こういう形でなら、演劇に関わってもいいかもしれない。

Aは気づいてしまった。あの朝のストリートACTを見て、
自分は演劇が好きなんだ、と。
過去にあんなことがあってもなお、自分は演劇から離れることは出来ないんだ、と。

きっと、板の上に立つには、あの過去を乗り越え１歩踏み出さなければいけない。
それは今のA自身には出来なくて、でも皆を支えるならば
今までに培った演劇経験は役に立つのではないか。

ならば、Aの選択肢は１つしかなかった。

「……私、MANKAIカンパニーのマネージャーやります。」

Aがそう言うと、監督の後ろに居る５人が嬉しそうに笑っているように見えた。