対向車線【紫】 (ページ10)

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仕事は嫌でも押し寄せてくる。

信五のことでモヤモヤしていた気持ちを朝のコーヒーで流し込み、

切り替えて仕事に向かう。

数日後のバラエティ番組収録の打ち合わせを終え、

テレビ局の廊下を歩いていると、

「…………げ」

真正面からミカが颯爽と歩いてきていた。

適当に挨拶をしてさっさと通り過ぎようとしたけど、当然そういうわけにもいかなかった。

「Aちゃ～ん！こんにちわ！

あっねえねえちょっと聞いて？？」

引き留められますよね～そりゃ。

もう、ディスられるのも飽きたからやめてくれよ。

「私ね、実は彼氏ができたんですっ♪」

耳元で囁くように言われたけど、そんなの

「ヘェーソウデスカ」

全然興味ないんですけど。

"性格ブスのくせに一丁前に恋愛なんてするんだぁ"

というセリフがでかけたけど

あたしも大人ですから。

言いませんよそんなこと。

「誰だと思う？？」

だから興味ないっての

「……さぁ？」

精一杯興味ないですアピールを醸し出すと、

ミカはふふんと笑って

「ま、すぐに分かると思いますよぉ～」

ヒラヒラと手を振って去って行った。

興味ないし、と思いつつあたしはさっさとその場を立ち去った。

―――そりゃあ予期できるはずもないよ。

ミカがわざわざあたしにそんな報告をしてきた意味なんてさ。

テレビ局の廊下が少し騒ついていることも

たまたま同じテレビ局にいた大倉くんが大きな声であたしの名前を呼んで走ってきたことも

人のいない会議室であたしの顔が大倉くんの胸板に押しつけられている意味も

大倉くんが握りしめる週刊誌の表紙に

"村上信五、モデルのミカとお泊まりデート"

と大きく書かれていることも

そこに載っている写真が撮られた日が

あたしと信五がイタリアンの店に行ったほんの数日前だったことも

全部全部

予期できるはずもなかったよ

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