対向車線【紫】 (ページ32)

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大倉side

あの二人、絶対ここが俺ん家ってこと忘れとるな…

部屋に入るタイミングが分からへんから、とりあえず玄関で突っ立って、二人の様子を暫く見守ってた。

ーー上手く、いったんやな。

俺は音を立てないように靴を脱いで、酒の入ったコンビニ袋持ってそろそろと寝室に入った。

「……お前も不憫な恋してんなぁ…」

寝室で待ってくれてたヤスが、眉を下げて俺を見た。

「ーー余計なお世話や。」

俺に入る隙なんてないんやから。

「ーー村上くん、それ、早よAちゃんに言わなやろ！」

村上くんに、ミカとの熱愛報道の全貌を聞いて、俺はまずミカの非道さに驚いた。

性格があまりよろしくないんは風の噂で聞いとったけど、まさかそこまでとは…

「俺、聞いてしまってん。
ミカちゃんがマネージャーに、わけ分からんこと吹き込んでんの」

「わけ分からんこと？」

「村上くんは二人きりのときはジェントルマンだの、村上くんは自分にぞっこんだの、村上くんはタイプじゃないけどどうしてもて言うから仕方なく付き合うてるだの」

「あー、それか……」

色んな人に言うて回ってたってことか。

法螺話にもほどがあるわ。

「あいつがそれ信じてまうの、困るし……俺、どないしたらええんやろ…」

その相談てことか。

そんなん、一個しかないやん。

「行けばええやんって、Aちゃんとこ」

「え、でも、お前……」

「村上くん、俺が何で、Aちゃんに近付くな言うたか分かってる？」

ぐ、と苦々しい顔をして見せた村上くんは、どうせまだ自覚してへんのやろ。

ほんま、鈍感なんもいい加減にせえよ。

「村上くんはさ、Aちゃんに好きって言うて、でも彼女にするのは勘弁、でも俺に心変わりはするなて言うたんやろ？

ーーそれって、めっちゃ都合ええと思わへん？」

「大倉……」

「腹も括れんのに、気持ちだけ自分に向かせとくて。
それただの"キープ"やん」

ぐうの音も出ないようなその顔に、俺は勝手に優越感を感じて、勝手に虚しさを感じた。

ほんま、こんな鈍感で阿呆やのに、結局は大事なメンバーやから。

彼女の、好きな人やから。

「…他にも色々あるけど。

それは本人の口から聞いてきいや。

ミカとのことも、否定せなあかんやろ？」

一番お互いの感情を分かってる俺が、協力してやらなあかんやん？

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