対向車線【紫】 (ページ19)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:63,922 hit

18 ページ19

はぁ、信五の次に、
いや信五より、かもしれない。

会いたくなかった。

撮影の合間、偶然居合わせてしまったミカに話しかけられ、

あたしは精一杯の愛想笑いをする。

「まあまあです～」

くそ、誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ。

…いや、2人が真剣に付き合っているとしたら

あたしに責める筋合いはないのか。

何だか悔しい。

「週刊誌、見ました？？」

うっせ！もう、うっせーっつの！

ちょっとは気遣いというものを知れ！

「拝見しましたよ～」

「私が言ってた彼氏、村上くんのことなんだよね♡
家にもお邪魔しちゃった！」

わざわざ報告なんていりませんから。

これ以上追い討ちをかけないでくれ。

ここで悔しそうな顔をしたり、悲しい顔をしたりするとミカの思う壺になってしまうので、

あたしは敢えて何事もなかったかのように、

「お幸せに！」

と出せる限りのモデルスマイルを返した。

今、信五への片想いを終わらせようと必死なんだから、もう掘り返さないでほしい。

あたしに笑顔を返されたミカは、

何それつまらない、と吐き捨てた後

再び勝ち誇ったような笑顔に戻って

「村上くんって、普段は当たりきついけど、2人っきりのときはすっごく優しいジェントルマンなんです♡

それってやっぱり私にゾッコンてことですよね～

私は村上くんってあまりタイプじゃないんですけどぉ

村上くんがどうしても私がいいって言うから、じゃあ付き合ってあげよっかな？みたいな！」

クネクネしながらあたしの顔を覗き込んでくる。

だめだ、だめだ。

頑張れあたし、耐えるんだ。

今までどんなにディスられても、動じなかったじゃないか、あたし。

頭に血が昇るのを感じながら

あたしはギリギリと拳を握り締めた。

分かってるんだ。

ミカが、あたしが信五を好きだと知ってて、

わざわざこんな報告をしてきているのだと。

あたしの悔しがる顔が見たいのだと。

馬鹿に、しないでよ。

好きでもないのに、信五がどうしてもって言うから付き合ってる？

そんなこと、信五が言うはずない。

そんな言葉も、ミカには負け犬の遠吠えのように響いてしまうのだろうから

必死で押し殺し、

あたしの忍耐力を総動員して。

「その話、あたしにしてもしょうがないと思いますよ？

あたし、興味ないので」

逃げるように、あたしはその場を立ち去った。

去り際、面白くなさそうなミカの顔が見えた。

・