対向車線【紫】 (ページ12)

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会議室を出て少ししてから、大倉くんはようやく掴んでいたあたしの手首を離した。

「……ごめんな、ちょっとかまかけてみた」

大倉くんは、悪戯っ子のようにニヤリと笑っていた。

「どういうこと？」

「Aちゃんは俺が守る！的な？
近付かんといてて言うたら、村上くんも焦るかなって。」

"もう、Aちゃんに近付かんといて"

なるほどあれは、そういう意味だったのか。

「Aちゃんのこと狙ってるわけとちゃうから、安心してや～」

「大倉くんに限ってそんなわけないし…(笑)」

大倉くんなりに、なおあたしを応援してくれているらしい。

いい友達が出来たなぁ、と思う反面

「――信五は、大して焦らないと思うよ……」

ミカの言っていた『彼氏』は、

おそらく信五で間違いないのだろう。

たった一度だけでも、あたしを好きだと言ってくれた信五。

自分のペースが大事だから、彼女は勘弁してほしいと言った信五。

それにもかかわらず、信五がミカを選んで、彼女にした理由。

そんなの、一つしか思い浮かばない。

「あたしじゃ、ダメだったんだよ……」

"お前が近くにおらなあかんねん"

"お前のこと好きなんやわ"

"大倉に心変わりするのは許さへんよ？"

あの台詞は、やっぱりあたしの妄想だったのかな。

何でだろう、フィルターがかかっているかのように、

あの日の記憶がぼやけて思い浮かべられないんだ。

信五は、

"彼女は募集していない"

ではなく

"あたしという彼女は募集していない"

だったのかもしれない。

言葉をそのまんまに受け取って、呑み込んでしまったのが恥ずかしい。

「――なぁ、Aちゃん、この記事、信じるつもりなん…？」

そう言いながら大倉くんが見せてくれた雑誌の記事には。

『○月○日午後22時ごろ、村上信五とミカと思われる2人が村上宅に入っていく姿が目撃された』

という文面と、確かに変装した信五とミカの姿が映る写真。

「…本当か嘘かなんて別にどうでもいいの。

少なくとも、信五があたしを見てくれてないってことは十分伝わってきたから…」

2人が本当に付き合ってるのかどうかはともかく、

あたしは、信五の家に上げてもらったことなんて一度もなかったから。

その差が、あたしをさらに追い詰めていた。

「…それじゃあ、次のお仕事あるから、また愚痴付き合ってね！」

とりあえず今ある仕事をこなしてから、現実に向き合うとしよう。

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