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大倉side
ヘタレな俺は、それからしばらく仕事が忙しいと言い訳して、Aに会いに行かへんかった。
メールの文面からは、探るようなことは感じられへんけど……
でもAのあの表情からして、
少なからず何かしら察してるやろうし
会う勇気が、出えへん……
「まだ会いに行ってへんの？」
出ました、こういう時鋭利な刃になっちゃうヤス様。
「いい加減逃げてないで向き合えや」
分かってる
分かってるよ
けど、もし…
「大丈夫や。もし振られてもうたら俺が付き合うたるから」
「ヤス……！ｷﾗｷﾗ」
「アホ、何本気にしてんねんな(笑)
ま、ヤケ酒くらいなら付き合うたるで？」
そんなとき、追い打ちをかけるかのように
携帯に通知を知らせるバイブレーションの音。
嫌な予感がしつつ携帯を見ると
『会って話がしたい』
―――あぁ、
「ほれ、彼女にも催促されてるで？」
俺にはもう、
逃げ場がないみたいや……
『分かった、今日の夜、そっち行くわ』
俺の返信を覗いてきたヤスは、満足げに頷いていた。
・
ありえへんことは分かってても
時間が止まればいいのに、と思うことは大人になったって一度は必ずある。
酷なことに、あっさりとその時はやってきて、
俺はAのマンションの部屋番号ボタンの前で立ち往生。
落ち着け、落ち着け、俺。
ちゃんとシミュレーションはしたはずや。
まず嘘ついてたことを謝る。
別れたい言われても絶対血が昇ったらあかん。
「……ふう。」
俺は躊躇いながらも、漸く部屋番号を押した。
『―――どうぞ』
俺は震える足を引きずって、
エレベーターに乗り込んだ。
・
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作者名：渡璃凛 | 作成日時：2020年8月25日 16時
