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章ちゃんから突然電話がかかってきたのは、蒼汰さんとデートをして、別れた後のこと。
映画を見に行き、カフェで感想を駄弁り、適当に買い物をしてまわる他愛のないデート。
あたしの左手は蒼汰さんの右手に包まれていた。
「今日は楽しかった。また行こうな？」
「もちろん。じゃあ、また会社で」
楽しかったなぁ、なんて余韻に浸りつつ、
まだもう少し一緒に居たかったなぁ、なんて物寂しい気持ちになりつつ、
月明かりの中、家路についていた時。
〜〜〜♪
"章ちゃん"と表示される携帯のディスプレイ。
少し迷ったけど、出るくらいならいいか、と通話ボタンをタップした。
「もしもし？」
『A〜……会いたいねんけど…』
「…ごめん、あたし今日は早く寝ないといけないから、ごめん！」
『風邪、引いてん……俺明日歌番組の生放送やし、早よ治さなあかんねん…
お見舞い来てや〜……』
風邪！？
アイドル様にはご法度じゃないか。
う、どうしよう
「えーと、誰か他の人に頼んでくれる？」
『Aやないとあかん！ほんまに！お願い！』
……
この男は…いささか狡すぎやしませんか？
自分が天使の可愛さを持ち合わせているのを自覚してのセリフなのだろうか…
仕方なしにスーパーでミネラルウォーターとお粥の材料と冷えピタシートを購入し、章ちゃんの家に向かう。
いい年した彼氏持ちの女が、男の家に行って大丈夫だろうか…
と思わなくもないが今日だけは許してください、神様。
「―――ねぇ、嘘でしょ……？」
あたしは見事に、嵌められたらしい。
「えへへ……」
コテンと首を傾げて眉を下げるこの人に、この状況にもかかわらずキュンときてしまうあたしをしばき倒したい。
「仮病ってどういうこと！！！」
「仮病使わんとA来てくれへんやんかぁ」
「ミネラルウォーターとかお粥の材料とか冷えピタシートとかばっちり購入してここに来たあたしの気持ちは！？」
「それはほんまにごめん！お金払うから！」
家についてパタパタと走ってきてドアを開けてくれた章ちゃんの顔色はどこからどう見ても平常運転。
部屋に入っても明らかに今の今まで作業していたことを物語るギターやら譜面やらが散乱している。
この人は、本当に……
何を考えているのか、分からない。
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作者名：渡璃凛 | 作成日時：2020年8月25日 16時
