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この前、珍しくいいこと言うじゃんって心の中で褒めてたあたしを殴りたい。
目の前で腹抱えて爆笑するデカい熊を、あたしの軟弱な腕でどうにかしばき倒せないだろうか……。
「ねぇ、マジで、爆笑するとかあり得ないんだけど……」
「ヒー、ヒー、ご、ごめん、んはははは！！」
「刺すぞ本当に……」
こういう時って普通、頑張ったな、とか、お疲れ、とか、
あり得ないけど、俺にしとけ、とか、
とりあえず何かこう、労いの言葉を掛けるもんじゃない？
此奴は何が面白くて涙を滲ませて転げまわってるんだか…。
あたしは仕方なく、大倉くんの笑いが収まるまでと、ビールを流し込む。
「ふぅ……ごめん、笑うつもりなかってんけど、つい(笑)」
「大倉くん、信五よりデリカシーないよ…」
「えぇ！？それは困るわ〜！勘弁！」
話すんじゃなかった……。
あの後、大倉くんから連絡が来て『どやった！？』なんてしつこく聞いてくるから。
まぁ話せばすっきりするかなと思って飲みに誘ったあたしを蹴飛ばしたい。
「そっかぁ〜、だめやってんなぁ。そんで、Aちゃんがそれで諦めるとも思わへんかったなぁ」
「しっかりフラグ回収しましたから。本気で告白して振られたらそれこそイタイ奴だっていうフラグ。しっかりイタイ奴になっちゃったよ」
「共演NGにして、連絡もやめる、か。向こうから連絡とかないん？」
「ブロックしましたからね、来るはずないよ(笑)
ま、大丈夫。あたしの気持ちが落ち着いたら、また共演するし、ご飯誘うし」
「……お前のその強靭なメンタルが健在でよかったわ…」
連絡を絶ってから、向こうからの何かしらのアプローチがあるはずもなく、ほんのりと形を残していた期待も崩れ落ちて数か月。
身体というのは正直なもので、テレビに出まくる信五の姿を画面越しに目にするたびに、胸がきゅって締め付けられてしまう。
あたしと会わなくなってからも変わらないその姿に安堵しつつ、
やっぱりどこか複雑な心境にならざるを得ない。
テレビをつけないわけにもいかないし…。
どうにかこの気持ちに蓋をして、鍵をかけることはできないだろうか。
歩み続けてきた一方通行の道を、何であたしの脚はまだ歩こうとしているんだろう…
もう少し時間、かけないとな。
信五のことを、心の底から「友達」として思えるように。
余計な感情を抱かなくて済むように。
そしてまた、何事もなかったかのように、ご飯に誘ってやる。
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作者名：渡璃凛 | 作成日時：2020年8月25日 16時
