page17「オオカミ少年」 ページ25
「昨日ぶりー!」
そう言って私の病室へと足を運んだのはまふくんただ一人だった。ほとんどいつもはキヨ君と来てるのに今日は来てないんだ、と思うと昨日の話の続きが聞けないことに胸の蟠りが膨れる。
後から来るのかな、なんて少しの期待を胸に、寝ていた体を起こしながら「キヨ君は来ないの?」と聞けば、まふくんは表情を変えることなくこう言った。
「そうだよ。これからキヨ忙しくなるからしばらく来ないよ」
こんなことなら昨日無理を言ってでも話を聞いていればよかった。
数学の宿題の答えを没収されたかのように、私の記憶の答えも取り上げられたように感じた。
____でも、それは気のせいだった。彼の話は、キヨ君の話は、答えではなかった。
結果、私はそう思ったのだ。
次の言葉でキヨ君の話の信憑性は薄れてしまったのだから。
「昨日の話は気にしないでね?
キヨってゲーム実況者でね、それで最近【姉】がでてくるゲームをやってて…。夜遅くまでゲームしたりして寝ぼけちゃってあんなこと言っちゃったんだよ」
それを聞いて肩に無意識に入っていた力がスッと抜けた。
____なんだ
____真実じゃ…、失くした記憶じゃなかったんだ……
でも話を聞いたときはこれと言って何も感じなかったくせに、急に『嘘だった』ってなると何故か受け入れがたい。
『じゃあこれは本当の記憶なのか』と聞かれれば、『違う』と答えるしかない。
だって、私の知らない私を知ってるまふくんがそう言うんだから。
それを信じなければ私はどこに私を置いてきたのかわからなくなる。
そう考えて、まふくんの言葉に返答するには体感的に10分はかかってそうだった。
だが、そんなことは全くもって無かったようで。
「そうなんだ」って言えば、「キヨも歳なのかもね」なんて笑い飛ばすまふくん。
そんな言葉で終わらしていい話なのかわからなくて私は笑えなかった。
私が笑わなかったことに不思議そうに顔を覗き込んで、目を合わすまふくん。
そんな行為もどう反応していいかもわからなかった。
「どうかした?」
優しい声音で私に問いかける。そこで私は心配されていることに改めて気づいた。
そこで私は目の前の彼に心配を掛けまいと笑いかけた。
「なんでもないよ!
それよりも、キヨ君ゲーム実況者?だったんだね!!」
話題を変えようと私が頭で必死に探したものはさっきのまふくんの言葉だった。
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雨中と猫。(プロフ) - ちょこさん» うわああああんすみませえええええんがんばります (2022年2月10日 2時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2021年12月20日 22時) (レス) @page49 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - いちごポテトよーぐるとさん» 返信が遅くなりすみません!めちゃくちゃ嬉しいです、現在別作品「笑えないって」リメイク更新中ですのでもう暫くお待ち下さい!! (2021年12月9日 18時) (レス) id: dcb807c257 (このIDを非表示/違反報告)
いちごポテトよーぐると(プロフ) - 色々な感情で涙が……とても面白かったです…。更新待ってます、! (2021年8月17日 0時) (レス) id: 33ba1212be (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 眠夢_さん» うわああああありがとうございます!!今メインで書いている「笑えないって」という小説のリメイクを行っていてそちらが落ち着き次第こちらも更新しようと考えております!絶対完結はさせますので何卒ー!! (2021年8月13日 3時) (レス) id: 6b41ff11b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨中と猫。 | 作成日時:2017年4月29日 2時