一夜夢物語(短編集) (ページ3)

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三夜目ページ3

｢久しぶりだね｣

目の前にいる君がこちらに微笑みかけて言う。

けれども、目の前にいる君が誰なのか分からない。

覚えていないだけだろうか。

いや、そんなことはない。

目の前にいる君の名前も顔も全く知らない。

声も今初めて耳にした。

それなのに、何故“久しぶりだね”と言うのだろうか。

｢元気にしてた？｣

返事をしない自分に君はそう続けた。

流石に二度も返事をしないのは気が引けた。

｢まあ、ね。｣

少し素っ気なかっただろうか。

“目の前の君が誰なのか”

そればかりが頭の中を満たし、気の利いた返事を返すことが出来なかった。

お互い特に喋ることもないまま、時間だけがゆっくりと過ぎていく。

何度記憶を遡ってみても、やはり君はいない。

ちらりと君を見る。

君はニコニコと微笑んでこちらを見ていた。

急に恥ずかしくなり、思わず視線を逸らす。

ふと君が口を開いた。

｢この子誰だろうって思ってるでしょ？｣

驚いて思わず目を丸くする。

｢図星、みたいだね。まあ、仕方がないんだけどね。｣

君は哀しそうに笑って言った。

｢目が覚めると夢の住人は忘れられてしまう。全部、全部。｣

君は哀しみを堪えるようにして続けた。

｢残念だけどもう時間みたいだ。本当は大事な話があったんだけど、それはまた今度。｣

ふと脳裏に浮かんだ昔の夢に君が確かに居た気がした。