【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ6)

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・久々知兵助と飯炊き係ページ6

「ほら！Aちゃん来たわよ！」
「お菊さん、声！声が大きいです！」

カウンターの方から態々厨房を覗き込んで私にそう叫ぶ彼女の声に七輪で魚を焼いていた厨房長も、味噌汁をお椀によそっていたおばさんも、皆して私を見てニヤニヤと笑う。暫くして件の忍者隊の方々がいらしったようで次々に料理が厨房から運ばれて行き、私も急いで白米を茶碗へとよそった。

「Aちゃん、それ代わるからこのお皿前に出して来なさいよ」

ポンポンと叩かれた肩に振り向けばニコニコしながらお盆を渡された。冷奴が盛られたお皿がいくつも並んでいる。冷奴といえばあの方の大好物だ。ニコニコ、いや、ニヤニヤと目を細めて私を見ながら右手にしゃもじ、左手に茶碗を持つ彼女の言葉の意図を察して恥ずかしいやらありがたいやら、複雑な気分だ。

厨房から出ていく時も「おっ、頑張れよ」と言葉をかけられていることからもわかるように、私があの方、久々知さんをお慕いしていることは厨房の皆が知っていることであった。

カウンターの一番右端に立ち、お盆を持って順番にお皿を受け取る忍者隊の方々に「どうぞ」と最後に冷奴を渡していく。忍者隊の方々は何日も城から出ていることもあり、ゆっくりとご飯を食べられることが少なく、心なしか他の城仕えの人たちよりも嬉しそうにお皿を受け取る。

「久々知くん、今日は冷奴よ！Aちゃんから受け取ってね」
「本当ですか！食べるのが楽しみです」

お盆を渡しながら久々知さんにそう言ったお菊さんはこちらに顔を向けるとパチリとウィンクをする。私がカウンターに立つといつもお菊さんは私の名前を久々知さんに教える。「今日のメインはAちゃんが渡す鮎の塩焼きよ」とか、「漬物はAちゃんから貰う白米と一緒に食べてね」とか。なんだか気恥ずかしい。
そんなことを考えている間にいつの間にか彼が目の前に立っていた。私よりも頭一つ分高い身長をちらりと見上げる。

「ど、どうぞ」
「ありがとうございます」

お皿を渡すときに私の手と彼の手が触れる、ということは無く、目を輝かせながら小皿を受け取った久々知さんは嬉しそうに席へと向かっていった。確かにお礼を言うときはこちらを見てくださるが、その視線はすぐに豆腐へと注がれてしまった。それが少し寂しい気もしたが、短いながらも会話ができたことに私は満足だった。

「あんなもの会話とは言いやしないじゃないかい」

そう厳しめな意見を述べながらお菊さんはお茶をすすった。