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「うん、やっぱりこの本は持っていくと良いよ」
「良いの?」
「ああ。でも、ちゃんと手続きを踏んで持っていくんだ」
「手続き?」
「そう、こっちに来て」
雷蔵はAを入り口の横にあるカウンターへと案内すると、引き出しから貸出帳を引っ張り出してそこに必要事項を記入した。しなやかな雷蔵らしい筆跡で書かれていくその様子をAはそっと目でなぞった。
『〇月〇日 火薬の調合と応用 ドクタケ忍術教室五年 AA』
好きな人が書く自分の名前はどうしてこうも愛おしく見えるのだろうか。Aはこの時ばかりは自身の名前が特別であるかのように思えた。
「よし!これで貸出完了だ」
「ありがとう」
「貸出期間は1週間だからそれまでに返しに来てね」
「分かった」
もしも2人が同じ学校だったらこんなやり取りをしていたのかもしれない、Aはそう思い感慨深い気持ちになった。渡された本を慎重に懐にしまう。
「分からない所があったらいつでも僕に聞きに来てね。…用が無くたって遊びに来てよ」
「え?」
「もっと、Aと話がしたいんだ。普段どんなことをしているのかとか、Aの友人の話とか、聞かせてよ」
そう微笑む雷蔵に「うん、私も、雷蔵と昔みたいに沢山話したい」とAもうなずいた。体を心地よい痺れが走った気がした。―――しかし、
「あ、…でも、私ドクタケの人間だよ」
ドクタケ城の稗田八方斎をはじめとする忍者隊は度々忍術学園と衝突をしている。その管轄下である忍術教室の生徒は皆良い子達で特に下級生は学園の同学年とも仲が良いが、より実践的に忍者隊とも共同して活動する上級生は下級生のようにはいかなかった。事実、にんたまの上級生の中にはどくたまに対して嫌悪感を抱いている者も僅かながら存在した。
「私が学園に来るのは嫌な人もいると―――」
「Aは良い子なんだから大丈夫だよ。にんたまの皆も気の良いやつらばかりなんだ。きっと分かってくれる!」
迷う様子無く言い切る。迷い癖を持ちながらも、雷蔵は時々今の様にきっぱりと言い切ることが昔からあった。それは相手を励ますときであったり、勇気づけるときであったり、自分ではない他の人に向けられたものであることが多かった。雷蔵が大丈夫と言うと不思議なことにネガティブな感情が吹き飛んでいく、Aの表情は自然と柔らかいくなっていた。
「それに、」
と雷蔵は言葉を続ける。
「どくたまである以前にAは僕の大事な人だから」
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Kira_Leis(プロフ) - いつも楽しく見させてもらってます!続き待ってます! (12月15日 11時) (レス) id: d36c2eac99 (このIDを非表示/違反報告)
ディーヴァ - 続きが楽しみです。 (10月30日 22時) (レス) id: e0221025e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:日比野 スズメ | 作成日時:2023年6月28日 19時