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人生塞翁が虎〈漆〉 ページ9

敦が報酬という言葉に眼をキラキラさせている間に、太宰は折りたたんだメモを国木田に渡していた


太「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に」

国「おい、2人で捕まえる気か?まずは情報の裏を取って――」

太「いいから。ボソッそれに二人じゃあない」


国木田の言葉を遮って言う太宰に、相棒として何か感じたのか、国木田は無言で了承した

そこに、眼をキラキラさせたままの敦が手もみをしながら聞いてきた


敦「ち、ちなみに報酬はいかほど?」

太「こんくらいピラッ」


太宰はさらさらとメモに数字を書いて敦に見せた

そのメモを見た敦は口を半開きにして息を飲んだ


太「あ、そうだ、敦君ちょっと失礼するよ」


太宰はそう云って敦のシャツの袖から何か小さいものを取り、それを握り潰した

だが、当の敦は報酬の額に驚いて太宰の行動に全く気づいていなかった




場所は変わり、港近くの某倉庫内

薄暗がりの中、敦は太宰の読んでいる『完全自'殺読本』と書かれた本をみてやや気が引けていた


敦「……本当にここに現れるんですか?」

太「本当だよ」


本から目を離さずに答える太宰に、敦は不安そうな表情を見せる

そんな敦を見て太宰は、本を膝に置いて敦に云う

太「心配いらない。虎が現れても私の敵じゃないよ。こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」

敦「はは、凄いですね自信のある人は。僕なんか孤児院でもずっと『駄目な奴』って言われてて……そのうえ今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で」


体育座りをして顔をうずめる敦の脳内に、また孤児院での記憶が蘇る

《天下のどこにもお前の所場所はありはせん……》

《この世から消え失せるがいい》


敦「こんな奴がどこで野垂れ死んだって、いや、いっそ食われて死んだ方が――」


自分を責め続ける敦に、太宰は一瞬だけハイライトの無い黒い眼を向け、サッと窓から見える満月を見上げる


太「却説――そろそろかな」


太宰の言葉を聞き、敦もばっと顔を上げ月を見ると、

ガタン


敦「!ビクッ今……そこで物音が!」

太「そうだね」


立ち上がって音のした方を向き、虎ではないかと焦る敦とは反対に、太宰は本を読みながら冷静に答える


敦「きっと奴ですよ太宰さん!」

太「風で何か落ちたんだろう」

敦「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」

太「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」

敦「ど、どうして判るんです!」


質問された太宰は、パタンと本を閉じて敦に云う

人生塞翁が虎〈捌〉→←人生塞翁が虎〈陸〉


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作者名:六等星 | 作成日時:2023年4月26日 6時

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