【文スト】マフィアの黒姫 (ページ11)

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人生塞翁が虎〈玖〉ページ11

触れた瞬間、ﾌｯと虎の影が揺らぎ敦の姿が現れる

敦に意識は無いようで、地面へ倒れかけたのを太宰が支える

太「……男と抱き合う趣味はない」

ところが太宰は敦を乱暴に引き剥がし、敦はﾋﾞﾀﾝｯと音を立てて顔から地面に倒れる

と同時に倉庫の入り口から怒鳴り声が聞こえる

？「おい太宰！」

太「ああ、遅かったね。虎は捕まえたよ」

太宰はうつ伏せに倒れたままの敦を指さしながら云った

そこへ怒声の主、国木田が駆け寄る

国「！その小僧…じゃあそいつが」

太「うん、虎の能力者だ。変身してる間の記憶がなかったんだね」

国「全く―――次から事前に説明しろ。肝が冷えたぞ」

国木田は緊張が解けたのか、先程太宰から受け取ったメモをﾋﾟﾗｯと見せながら頭を掻く

メモには、『十五番街の西倉庫に虎が出る逃げられぬよう周囲を固めろ』と書いてあった

国「おかげで非番の奴らまで駆り出す始末だ。皆に酒でも奢れ」

そう言った国木田の後ろに、駆り出されたであろう三つの人影が現れる

一番右の一人は、麦わら帽子をかぶったオーバーオールの少年

中央の一人は、艶のある黒髪に蝶の髪飾りをつけた膝丈スカートの美人な女性

最後の一人は、いかにも探偵だと言わんばかりの格好をした糸目の青年

そして、倉庫に入ってきた三人を含めて話し始める

「なんだイ、怪我人はなしかい？つまんないねェ」

　与謝野晶子―――能力名『君死給勿』

「はっはっは。中々できるようになったじゃないか太宰。まあ僕には及ばないけどね！」

　江戸川乱歩―――能力名『超推理』

「でも、その人どうするんです？自覚はなかったわけでしょ？」

　宮沢賢治―――能力名『雨ニモマケズ』

「どうする太宰？一応、区の災害指定猛獣だぞ」

　国木田独歩―――能力名『独歩吟客』

「うふふ、実はもう決めてある」

　太宰治―――能力名『人間失格』

そう言った太宰は敦の方をﾁﾗｯと見て、敦の言葉を思い出す

《こんな奴がどこで野垂れ死んだって、いや、いっそ食われて死んだ方が―――》

そして、一度目を閉じ、その場の他の四人に宣言する

太「うちの社員にする」

敦「ｽﾋﾟｰ」

太宰の言葉を理解できなかったようで聞いていた皆の目が点になる

一人、変わらず笑ったままの乱歩を除いて

「はぁぁぁあぁあ！？」

ワンテンポ遅れて、夜の倉庫街に誰かの叫び声が響き渡った

その夜の倉庫街は、朧月で明るく照らされていた