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「いつから気付いていた、なんて。無意味な質問でもしようか」
「そんなの、決まっているじゃない。貴方も私も、互いを一目見た瞬間から、でしょう?」
聡い。あまりにも聡い彼女の返答に、思わず口角が上がる。馬鹿にされたとでも思ったのか、彼女の赤い唇がつぅ……と俺を誘うように尖った。
「それとも、そんな事にも気付けない程の阿呆だとでも思っていたの?」
「まさか。彼の赤ずきん本家のお嬢様に、そんな無礼を思うわけがないだろう?」
コツリ、コツリ。彼女のヒールが、無機質な音を立てる。微塵もぶれる事のない銃口に、降参、と軽く手を挙げる。
「あら、オオカミの王がよく言うわ」
ガツリ。鈍い音をあげ、喉元に冷たい鉄の塊を押し付ける。身長差で頭には届かなかったのだな、と思えば、彼女の行動の全てが愛らしく思えてくる。
このまま彼女に命を刈り取られるならば、それも本望かと思えた。
「私、貴方には期待していたのよ? 王様?」
「何に期待されてたのか、答えてもらえる? お嬢様?」
互いに、一言でも間違えれば、今のふたりの関係は終わる。分かり合う事のないふたつの一族の命運は、たぶん、ここで決まる。
覚悟を、決めろ。
己が、"オオカミの王"である使命を果たせ。
「己が一族の非を認め、これまでの行いを正式に詫びなさい」
「そちらこそ。過剰なまでの報復を詫び、散って逝った我が一族に祈りを捧げろ」
互いに鼻で笑い合い、この交渉が決裂した事を意味した。長年の因縁は、たかがふたりではどうする事も出来ないのか。
「私、」
誰にも聞かせる気がないかのように。小声で、俺にだけ聞こえれば良いとでも言いたげな小さな声で。空気を吐き出すような、玉を転がすような声が鳴る。
「私、貴方となら、分かり合えると思っていたの。あの時間は、嘘じゃなかったって信じてたの」
「……A」
こちらを睨む鋭い視線が、夕暮れの海のように煌めいていく。カタカタと震える銃口など、俺の力をもってすれば、容易く押さえ込めてしまえるというのに。
小さな体に、いったいどれほどの一族の期待を背負わされてきたのか。
いったいどれほどの一族の命運を任されてきたのか。
似たような立場にいるはずの俺には、到底理解出来ない事だ。それでも……
それでも、この小さな体を抱き締める事が出来たなら、どれだけ良かったのだろうか。
意を決したように、力強く引き金を引く指を、黙って見詰めた。
***
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関西風しらすぅ@坂田家 - 坂田さんの絵本描いてる設定とかリアリティありすぎて好きです。幼いセンラさん天使すぎな。 (2019年6月16日 11時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
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