鼠と猫 ページ6
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「其奴はねえ」
二人並んで座って暫く、漸く太宰さんが口を開いた
「とても危険な男だ」
『はあ、其れくらいは知ってますけど』
何を云い出すかと思えば、昨日国木田さんに調査のあらましを訊いた時に散々云われた事と同じだ
「君が思っている以上に危険な男だよ、私はねえ、出来れば君には関わって欲しくないのだよ、A」
『…そんな事云われましても』
珍しく真剣な顔の太宰さん
「ハァ…本当は云いたくないのだけど」
『なんですか?』
問うと、尚も真剣な瞳がじっとこちらを見下ろした
「――地下だ、奴は、地下に住む鼠だよ」
『地下…鼠…?』
「そう、さしずめ君は其の鼠を追う猫だけど、深追いし過ぎて逆に喰われないかが心配なんだ」
―――その時何故か、昨日ヨコハマを覆っていた空一面の鼠色を思い出した
そういえばあの人も、異国人っぽい風貌だったなあ…
「一寸A、訊いてるの?」
『あ、はい、訊いてます』
「何、上の空で、怖くなったかい?調査やめる?」
『……』
実にやめてほしそうである、真意が読めない男で有名だけど、今は其の瞳からひしひしと伝わってくる
『やめませんよ、仕事ですから』
「そう」
又判り易く肩を落として相槌を打った一応先輩、こういう時こそ胸を張って云うべきではなかろうか、「流石私が指導しただけあるね」と
『大丈夫ですよ、太宰さんが心配してる様な事にはなりません、きっと。慎重に進めますから』
ポンっと其の落ちた肩に手を置いて、説得じみた事を云ってみる
そんな私を見た太宰さんは、「A…」と小さく呟いて、今しがた肩に置いた私の手を優しく掴んで握った
『な、なんですか』
「君の其の何事にも怯まない強さ、女性としてとても素敵だよ、だから…――だから、私と心中しよう!」
厭です、と即答しようとした時だ、ベシッと重たい音と共に、目と鼻の先迄迫っていた太宰さんの顔が、首から横に折れた
「こんな所で油を売っていたのか唐変木」
「痛いじゃあないか国木田くーん」
『お迎えご苦労様です国木田さん』
「ああ、邪魔したな、行くぞサボリ魔」
ずるずると引き摺られ乍「あああAー」と無謀に手を伸ばしている太宰さんに、心の中で礼を云って私も立ち上がった
―――さて
『地下に住む鼠、かあ…』
情報に貪欲な猫は、更なる情報を求めて餌の巣に行く
既に半身喰われかかっているとは知る由も無い―――
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世河経(プロフ) - 孫うこと無き神作を見つけた (2022年3月23日 11時) (レス) @page4 id: 41bf3298cb (このIDを非表示/違反報告)
野良神(プロフ) - すみません、26ページなんですけど、ドスエフスキーになっていましたよ? (2018年12月21日 14時) (レス) id: d6c3f54fc0 (このIDを非表示/違反報告)
狐の涙(プロフ) - フョードルさん、いいですね。生命の輝き!! (2018年10月13日 21時) (レス) id: e918fb1bd4 (このIDを非表示/違反報告)
ハニー - ドストさんすき…あゝでも生命の輝きもすき…もッと云うなら骸砦組だいすき。 (2018年10月5日 11時) (レス) id: f040ea1a18 (このIDを非表示/違反報告)
彦星(プロフ) - 今更コメントすみません、失礼します。最高でした(;_;) ドス君、、、最高の作品をありがとうございました!応援してます! (2018年7月4日 17時) (レス) id: 3e6db4893b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お餅 | 作成日時:2018年4月14日 15時