冷 ページ2
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『――雨降りそう』
今にも大粒の雫が落ちてきそうな、一面鼠色の空を見上げてぼんやり、独り言ちた
場所はヨコハマ、――日本有数の港湾都市の、正に其の埠頭である
『傘、探偵社に忘れてきちゃったよ、ついてないなあ』
日頃の労をねぎらってか、半休を貰って何時もより早く退社したってのに、そんなボヤキが零れる程には今朝からついてないのだ
『――ハァ…』
これ以上災難とこんにちはしない為に大人しくさっさと帰ろう、そう思い立ち上がった時だ―――
ふわりと、其れ程強くもない、所謂微風に、何故か私の躰が傾いた
――あ、落ちる
直ぐ目の前は海、バランスを失った私の躰は、勿論重力に正直だ
何処かの重力使いなら、こういう時便利に異能を活用するんだろうな、なんて、他人事じみた思考に至り乍海に吸い込まれる
本当、今日はとことんついてない――
――…ん?…あれ?
諦めて半分閉じかかっていた目を見開いてパチパチと瞬かせる
来ると思っていた海に落ちる時の衝撃、水の冷たさ、私に降り掛かる筈だった本日幾度目かの災難が、寸前で回避された
代わりに右手首に海とは違う種類の冷たい感触
『――え』
「……」
さぞ阿呆面であろう私を、無言で見下ろす其の人の瞳は、掴まれた右手と同じくらい冷たかった――
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世河経(プロフ) - 孫うこと無き神作を見つけた (2022年3月23日 11時) (レス) @page4 id: 41bf3298cb (このIDを非表示/違反報告)
野良神(プロフ) - すみません、26ページなんですけど、ドスエフスキーになっていましたよ? (2018年12月21日 14時) (レス) id: d6c3f54fc0 (このIDを非表示/違反報告)
狐の涙(プロフ) - フョードルさん、いいですね。生命の輝き!! (2018年10月13日 21時) (レス) id: e918fb1bd4 (このIDを非表示/違反報告)
ハニー - ドストさんすき…あゝでも生命の輝きもすき…もッと云うなら骸砦組だいすき。 (2018年10月5日 11時) (レス) id: f040ea1a18 (このIDを非表示/違反報告)
彦星(プロフ) - 今更コメントすみません、失礼します。最高でした(;_;) ドス君、、、最高の作品をありがとうございました!応援してます! (2018年7月4日 17時) (レス) id: 3e6db4893b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お餅 | 作成日時:2018年4月14日 15時