【ヒプマイ】挙動不審な彼女と12人

29、こんなの初めてだ ページ35

三郎side


無視するつもりなんて無かった。


おかえりなさい、と笑顔で言うAさんの表情を曇らせるようなことなんてしたくなかった。


でも何故かあの人を前にすると上手く言葉が出せない。



だからAさんに話しかけられたとしても無視してしまうか、そっけない態度をとってしまう。



恋愛(こっち)のことに関しては、いつも低俗って言って馬鹿にしている奴らと対して変わらないのかもしれない。




自分の部屋に入り、机に突っ伏した



「はぁ…こんなの初めてだ……」





・

Aさんを無視してしまったことで大きく膨らんだ自責の念は、時間が経っても消えること無く遂に夕飯の時間になってしまった。



周りの人達は毒島さんの料理を食べ、盛り上がっているが僕は1人ずっとモヤモヤしていた。



皆が美味しいと言っている鍋もあまり味がしない。



…このモヤモヤはどうしたら消えるんだ？




そんな事をずっと考えていた。





・


ぼーっとしながら使った食器の片付けをしていると、いち兄たちが今日の皿洗い当番の話をしていた。



あ、確か今日は僕だったか…



「あ、僕です」


一郎「今日は三郎だったか、よろしくな！」



さっさと終わらそうと足をキッチンへと向けた瞬間Aさんが声を上げた。



『あっ、あの！私お皿洗い手伝います！！』



そんな事を言われるとは思っていなかったからまた酷い態度をとってしまった。


「……勝手にどうぞ」



こんな事しか言えない自分が情けなくなってきた。






・


今、Aさんと皿洗いをしている。


が、お互い何も喋っていない。



話題を考えなければ、そう思うもまたあんな態度をとってしまったら……と色々な事を考えているうちにある事が頭に浮かんできた。


無視してしまったことをまだ謝っていない。




友達のようにペラペラ話すことは出来なくても
申し訳ないことをしたのだ。


きちんと謝らければ……




「『あの』」


『へ？』

「あ」



タイミングが見事に被ってしまった。


こんな漫画の様なことがあるのだろうか…



呆気に取られているとAさんは僕に向かって頭を下げてきた。


『あのっ、今朝は本当にごめんなさい！！
ご兄弟の事なのに私が余計な事を言ってしまって…』



…今朝の事？


【お、お2人は仲が良いんですね！】

【はぁ？】

【貴方の目は節穴ですか？】



やってしまったことが頭に蘇ってきた。


あぁ、またやらかしてしまっていた……

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