邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

尊敬 ページ46

ヒントは大いにあった。

煙草。煙草といえば、私は芥川先生を一番に連想する。一日に180本は吸っていたという芥川先生。酒も煙草も、苦手だった私には信じられないことだった。それならば、転生してからも煙草は吸うに違いない。和服のようなものでさえ、芥川先生らしいと思えてしまう。

「なになに、風月、芥川先生と二人で話してたの？ 何を？ いいなぁ……」

そういえばコイツも、芥川先生の大ファンだったか。芥川先生が目の前にいることで、歓喜しているのか、いつもより林檎のヘタのような部分がぴょこぴょこ動いている気がする。

「花鳥君が本を落としてしまったから、僕が拾っただけだよ」

芥川先生がまたもや微笑しながら言うと、太宰は私の持っている本に目をつけた。そして、自分の著作があると気付くと、目を輝かせてやっぱり風月も俺のファンなんだな！ とほざく。

「やかましい」

一喝すると、太宰はしゅんとなって、林檎のヘタが今度は下に下がってしまった。分かりやすい奴だ。嫌いじゃないが。はらいせなのかは分からないが、太宰はこう付け足した。

「風月、芥川先生に憧れて小説を書き始めたん」
「やめろ太宰！」

慌てて太宰の口を塞いだが、芥川先生には聞こえてしまったようだ。恥ずかしい。当の本人、芥川先生は一瞬驚いて目を大きく見開いたが、にこりと笑って、

「有難う、嬉しいよ」

と言うのだった。

(二人とも、面白い子だなぁ……)

禁煙→←硬直

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