誰も (ページ8)

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8 おもいつみにページ8

海賊船内。私の勝手なイメージで、
ドクロでも掲げていそうなものを、
この船は一見商船にしか見えない。
｢昔はドクロを剥き出しに暴れまくってたがな。
ま、若気の至りってやつだ。｣
ピリカはそう言って笑った。
海賊とはいえ働き手は欲しいらしく、
私たちは特に冷遇されるでもなく仕事をこなす。
と言っても物を運んだり
見張りをしたりといったもので、
船の操縦などは船乗りが行った。
彼らは私たちを乗組員のひとり
として扱ってくれた。
食料も酒も平等だ。
船内で無駄な争いが
起きないようにするためらしい。

船はゆっくりと進んでいく。
私は海を見ながら両親を夢想した。
優しい人だと、いいけれど。
私のことを、覚えているだろうか。
卯月兄は両親のことを話してくれない。
卯月兄も小さい頃だったから、
あまり覚えていないとも言っていた。
その言い方だと、その数少ない記憶は
あまり明るいものではないのだろう。
私はこの船に乗ってから、両親のことを
卯月兄に聞くのをやめた。
両親に会えなくて、卯月兄は
寂しくないのだろうか。
卯月兄は、何も言わない。

｢灯台島を知っていますか。｣
卯月兄がある日、不意に私に聞いた。
私が名前を聞いたことがある程度だ
と答えると、卯月兄はそうですか、
とだけ言う。
｢灯台島を作ったのは、僕の叔父なんです。
そして、僕の記憶が正しければ、
叔父はこの海賊団に殺されました。｣
背中に伝う汗の触感が妙に感じられた。
言葉が出ない私を庇う様に卯月兄は続ける。
｢富豪掃滅運動の影響です。
叔父は裕福ではなく、曽祖父が1代で
大金を築き上げたそうですが。
大陸はそれを良しとせず、
父と叔父に賞金をかけたんです。｣
卯月兄は淡々と語る。
私はどうしていいか分からない。
どうして、こんなに他人事みたいに
なれるんだろう。
憧れの卯月兄は、どこに。
｢叔父の1人娘は生き残り、
今はどこにいるか定かではないそうです。｣
卯月兄は、そこまで言うと微笑んだ。
ハッピーエンドだからって、
私の疑問は消えない。
卯月兄のばか。

｢そろそろアリアが見えてくるぞ。
ま、見えてからが長いがな。｣
ピリカはそう言って黒い影を指さす。
あれがアリアらしい。
船は重苦しいまま波の上を滑っていく。