Fall. (ページ34)

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34 Aishiteru. ページ34

ある者は泣き叫び、
ある者は遠くを見た。

雨が降っている。
ヴァリテ様は、泣きながら怒り狂い、
また、私に当たった。
｢ふざけるなよ！あの男はいつも勝手なんだ！
僕だって！
母さんの隣にずっといたかったんだ！｣
そう叫び、私の胸倉を掴みあげた。
何度も、何度もこだまする、その声。
私は、何を守っていたのだろう。
私なら、ルナード様を助けることが
できたのだ。

私には、知識がある。
ルナード様のご病気のことなど、
名称から治し方まで全て知っていた。
私は、助けたかった。
｢いいの、ルッペルさん。
私ね、自然に生まれて、自然に死にたいの。
それに、もう充分だわ。
60年も生きたら、ね。｣

ルナード様の声。
ヴァリテ様の声と重なって、反響する。
どうして。
どうして、
無理やりにでも治療しなかったのだ。
あの時は、60“も”という単位に
私は悲しみを覚えただけだった。

｢申し訳、ございません……でした……。｣
私は、頭を下げることしか出来なかった。

｢御母様が……？そう……。｣
マリ様は、ことのほか
感情の動きを見せなかった。
まるで、ルナード様が、
ただお茶をお飲みになられた、
とだけ申し上げたようだ。
マリ様は、ずっとご両親にべったりで、
あの日も最後まで谷にいたというのに。
｢ねぇ、ルッペルさん。
御母様は……人間、だった、の？｣

｢はい。正確に申し上げますと、
降ろし子でございました。｣

そう、なんだ。
マリ様は、言葉に詰まった様子だった。
魔物ならば、こんな病気では、死なない。
分かっていたのだろう。
母だけが、周りとは違うことを。

マリ様は、遠くを見やった。
｢あそこにね、漁師島っていう島があるんだ。
あの島には、何もないの。｣
なあんにも、と、繰り返した。

それが、何を意図していたのか。
私には、一生口に出すことができない。

｢おか……さん？｣
それはなんだ、というような目。
ああそうか、言葉を教えて
差し上げなければ……。

言葉、か。

どうして、
また、あなたを思い出してしまうのだろう。
あなたが必死に覚えた、言葉。
ひとつひとつを、
私たちにとっての一瞬の内に、
たくさん伝えてくれた。
私たちへの、愛を。

｢リュウ様、私はあなたを、愛しております。
どんな罪を背負った者だろうと、
愛してると言ってくれる者の
そばにいるのが、１番良いのです。｣
だから。
初めに覚える言葉は、これでいい。