Fall. (ページ33)

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33 I thank all story's start and end. ページ33

｢ただいま。｣
おおかみさんの、優しそうな声が響いた。

｢おかえり。｣

｢おかえりなさいませ。｣
私達は、笑顔で出迎えた。
結果がどうであれ、
おおかみさんがそこにいるのなら、
もう、それでいいんだ。

｢戦争は……終わった。｣
そう言うと、おおかみさんは、
溜め息をついて、
脱力したように座った。

私たちは、おおかみさんと並んで座って、
少し薄くなった霧の向こうを見つめている。

これで、子供たちは帰ってくるんだ。
良かった。
また、みんなで一緒に笑えるんだ。
子供たちに手伝ってもらって、
アップルパイを作ろう。
きっと、おいしくなるはずだ。

｢けほっ、げほ。｣
最近、咳が頻繁に出る。
ルッペルさんは気遣ってくれるものの、
おおかみさんは忙し過ぎて
気づいていなかったようだ。

｢大丈夫か？｣
大人になっても追い越せなかった
大きな身長差に見下ろされ、
私は、少し安心した。

｢うん、最近、少し咳っぽくて。｣
何故なんだろう。
今まで、風邪なんて引いたことなかったのに。

｢ゲホッゲホッ。うぅ……｣
口から離した手は、真っ赤に染まっている。
どうして？
もう少し、だったのに……。

意識が、遠ざかっていく。
黒の面積が大きくなって、
そして、景色は消えた。

｢ルナード！｣

｢ルナード様！｣

ごめんね。
私、もう1度、みんなで……。

それから１ヶ月の間、
ルナード様は眠っておられた。
その間も時折血を吐き、
少しずつ弱っていった。

若様は、子供たちを呼ぶな。
と、命ぜられた。
こんなところを、子供たちには
見せられないとのことだった。

そして、今、ゆっくりと、
ルナード様は、目を開けた。

｢ルナード！｣

私は、部屋に残るべきか、
二人きりにして差し上げるべきか、
悩んだ。
しかし、ルナード様のお言葉を聞くことも
役目と思い、残ることにした。

｢おおかみさん……。｣

｢ルナード！無理はするな。
何が欲しい？水を持ってこよう！｣

｢いいの。｣

｢ルナード？｣

｢もう、いいの。｣

｢嫌だ。俺を置いていかないでくれ……！｣

｢愛してるよ。ベート。
これからも、ずっと。｣

｢ルナード……。｣

その日、
シオンの花が、枯れた。
ゆっくりと、ただ愛する人の名前を呼んで。