Fall. (ページ32)

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32 No body here. ページ32

シオンの花が咲いて、枯れて。
また、咲いた。
戦争は、長期化を迎えた。
小さな喧嘩が、少しずつ大きくなって。
わたしたちを、飲み込んだ。

もう、私たちには、何も残っていない。
兵は力尽き、武器も、食料も、
あまり残っていない。

｢もう、俺達には勝つ見込みはない。
和解を申し出てくる。
ルッペルは、ルナードの側にいてくれ。｣

そう言って、おおかみさんは、
森へと向かった。
それから、まだ帰ってきていない。

｢ねぇ、おおかみさん、けほっ、
戻ってくるかな。けほっ、けほっ。｣

近ごろ、体調を崩した私の背中を撫でながら、
ルッペルさんは、微笑んだ。
彼の笑顔は、
子供の頃は滅多に見られなかった。
しかし、最近は、よく笑ってくれている。
これは、
ルッペルさんが笑う回数が増えたのか、
ルッペルさんの笑顔に
気づく回数が増えたのか。
どちらにせよ、嬉しい。

｢ええ、若様は戻ってきます。きっと。｣

｢ルッペルさんは、おおかみさんのこと、
信じられてすごいね。｣
私は、白い欺瞞が空に上がっていくのを
目で追いながら、笑った。

｢はい。若様は、大変な苦労をしてきました。
嘘を吐いたこともあるでしょう。
そんな時、彼のどんな言葉も信じる者が
必要なのです。
私は、そんな誰かになりたかった。｣

ルッペルさんは、背中を撫でる手を、
そっと自らの額に当てがった。

｢なれたでしょうか。
私は。
若様は、いつも遠くを見ておられる。
私には、若様の目が、その誰かを
見ているようで。怖いのです。
私は、何になったらいいのでしょう？｣

そうか。
あなたも、怖がりだったのか。
それなら、欲しい言葉は、
私たちと同じでしょ。

｢大丈夫。
ルッペルさんのしてきたことは
無駄じゃなかったの。
そうじゃなかったら、おおかみさんは、
遠くを見る余裕なんてないもの。｣

今度は、私がルッペルさんの背中を撫でた。
ルッペルさんの背中は、
少し骨っぽくて、ゴツゴツしていた。

｢ルナード様……。｣

ルッペルさんの、青い目が、
白い心の向こう側に、美しく見えた。