Fall. (ページ24)

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24　We will be a ページ24

私は、何も言わなかった。
言えなかった、
という方が正しいかもしれない。
何を言っても、意味のない慰めになる
気がした。

「若様、谷が見えて参りました。」
おじさんが、
おおかみさんを咎めるように言った。

ここが、おおかみさんの故郷なのだ。
そう思うと、少し緊張する。
それは、おおかみさんも同じらしい。
「大丈夫。怖くないからな。」
なんだか
おおかみさん自身に言っているようで、
悲しかった。

私は、おおかみさんの手を繋ぐ。
私には、このくらいしかできなかった。
大丈夫。怖くない。

「一度、来たことはあるんだよな。
もう、覚えてないか。」
おおかみさんは、何故か嬉しそうに言った。
谷。というよりは、集落のように見える。

「おい、親父はいるか。」
おおかみさんの声が、いつになく険しい。
たくさんの目が、こちらを見ている。
のっそりと、大きな大きなオオカミが
歩いてきた。
「おお、帰って来たか、我が息子よ！
あの子はどうした？もう食ったのか？」
おおかみさんの舌打ちが聞こえる。
私の手を掴む力が、強くなった。

「もう冗談とも思わないぞ。
もう、
この子に、汚いものを見せたくないんだ。
この子も、谷も、守ってみせる。
お願いします。跡を……継がせて下さい。」
おおかみさんが頭を下げた。
「順序が逆じゃないか？
お前みたいなひよっこに、
跡を継がせるとでも？」
大きなオオカミが嗤う。
「兄貴は、もう帰ってこない。諦めてくれ。
俺が谷を継ぐ。このままじゃ、
この谷は終わりだ。」
「兄貴、ね。
分かってる？お前は獣だ。
僕の血が入ってるから
魔物のふりできてるだけだろ？
そもそも……
そんな人間の子に
情けをかけるなんてねぇ……。」
大きなおおかみが嘲笑した。
おおかみさんは、とうとう私の手を離した。
そして数秒後、
自分の手を血の滲むほど強く握った。

「帰ってもこない幻想に甘えるほど、
俺は空想家じゃないんだよ！
人間がなんだ、魔物がなんだ！
お前みたいな醜い野郎は、
種族なんて関係なしに、いくらでもいる！」
「ベート……。」
オオカミは、低く唸った。
もしもの時は、私は……。
「良く言った！この時を待っていたんだ！
いやー、さすが我が息子！
跡を継がせてやろう！」
は？と、おおかみさんの呆けた声が聞こえる。
私も、なかなか状況が飲み込めない。
でも、もう一度おおかみさんが
手を握ってくれたから、
多分、喜んでいいんだよね。