Fall. (ページ36)

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36 I am not going to say a naive. ページ36

｢子供たちには、最後までいい父親には
なれないな。｣

｢と、申しますと？｣
若様の発言を逐一メモに書き残しながら、
私は若様の話を聞いていた。
その声の端々に、温かさと諦めを感じながら。

｢最後まで、ああ、クソ親父だったな。
そう思われないと、
辛い思いをさせてしまうだろう。
どうしてあんなに優しい父さんが死んだんだ、
というよりも、
死んでせいせいした、と思われたい。｣

｢成程。｣
私は、マリ様の言葉を思い出した。
何度も反芻しているあの言葉。
あれは、若様にもらったものだったのか。
何とも、皮肉なものだ。

｢ただ、ちゃんと、子供たちが
一人で生きていけるようになったのを
見届けるまで死ねないな。｣

｢はい。そちらの方に関しましては、
私にお任せ下さい。｣

私は、子供を育てたことはない。
親に育てられた経験もない。
だから、愛情を注いで差し上げる、
そんなことはできない。
私にできるのは、生きていくための
知恵と力を授けることだけ。
それでも、若様に満足して頂けるだろうか。

｢ただ、俺が死ぬ時は、子供たちは
呼んでくれないか。
ルナードの
死に目に会わせてやれなかったからな。
せめてもの罪滅ぼしだ。｣

ルナード様の名前を呼ぶ声は、
いつ間にか物悲しく変化してしまった。
若様は、何も悪くない。
そう、言いきれない自分もいるのだ。

｢かしこまりました。
必ず、そのように致します。｣
私は、ノートとペンを胸ポケットにしまって、
一礼した。

｢ルッペル、このことは、
ケーニには内緒にしておいてくれよ。
きっと面倒になるから。｣
私は、はい、と返事して、
しまいかけたノートに記録した。

私がひとりになるのは、これで
初めてではない。
むしろ、若様やルナード様と一緒に
いられた時間だけが、
ひとりではない時間だった。
きっと、本当にあなたが
いなくなる時は、言えないだろうから。
いや、その時は、私はいうべきではないから。

｢若様。私は……あなた方と一緒にいられて、
本当に幸せでした。
今まで……ありがうございました。｣

｢気が早いぞ。｣
若様は、笑って私の胸を小突いた。

若様の笑顔を、
私はあと何回見られるだろうか。
私のような者が、あなた方とずっと一緒には
いられないのは分かっていた。
けれど、いざとなると、
こんなにも胸が苦しいなんて。
私は、いつかあなたの顔も、声も
忘れてしまうけれど。
それでも、あなたが与えてくれた
温もりだけは、忘れないように
持っておきたい。