ドンワナ。 (ページ1)

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All Kiside

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「……なに、やってんの…？」

まるで信じられないものでも見たかのように

これ以上ないって程に驚いた表情をする目の前の此奴。

ああ、

…長年一緒に居たのに此奴のこんな表情見たことねぇな。

初めてだ、こんな表情。

俺に向けられてるのが違和感のあるその表情を

まじっと見ながら冷静に彼との関係性を思う。

実際一緒に居たって言ってもあくまでそれは仕事の時だけで。

お互いのプライベートなんて知らない。

俺が知らないだけで普段はこんな表情もすんのかも。

…まぁ、もうどうでもいい。

元々交わってるかどうかさえ曖昧な視線を再び元見ていた方向に視線を向ける。

もう、これで何もかも終わりだな。

感情なんて極限まで無に近くてとことん自分は冷めた奴なんだとしみじみ思う。

早く終わらせたい。終わりたい。

ただそれだけで。

…あ、でも痛えのはちょっとやだな。

何か自分に声をかけられてる気がするけど

ふぅ…っと息を吐き、右手に力を込めた。

「…ちょっ待てって！っ北山！！！」

手を掴まれたのが先か、

それとも自らの腕を剃刀で切ったのが先か、

それはほぼ同時だった。

否、切ったのが先だったらしい。

生暖かい赤い液体。

それは手を掴まれたせいか思ったよりも飛ぶ感じではなくて、

ドプリ…ッと溢れて滴る感じだった。

瞬間、強烈な錆びた鉄のような匂い。

その中に微かに混ざる甘い匂いにクラリと溺れるように…俺は意識を手放した。