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____なんっで気付かねぇんだよ


香水を変えたのも、夜出歩くのを心配して、わざわざ付き添ったりなんざするのも、荷物を持ってやるのだって

そんなの全部、手前が好きだからに決まってんだろ



二人きりの、昇降機(エレベーター)という名の密室

最近忙しそうにしている中、一旦帰宅した後の夜中の外出だってのに、髪も服装も整ってるその姿はちっとも隙がない



俺がどんなに優しくしたって靡かないどころか、気障にお礼までしてくるような、綺麗な笑顔で俺を呼ぶ手前が

気品があって、たおやかな手前が、好きだ


手前が隣の部屋に越してきてから、惹かれるのに時間は掛からなくて、ずっとずっと好きだった





好き、なのだが




「中原さんって珈琲好きなんですね」

「あ? なんだよ、急に」

「珈琲、喜んでもらえたみたいなので」



違えよ莫迦、俺が好きなのは手前だって何で判んねえんだ、この鈍感女め

手前からのもんじゃなけりゃ、珈琲一つでこれだけ喜べるかっての


なんて

良かった、と胸を撫で下ろす手前を見たら




「……まあ、そうだな、」


文句も喉の奥に隠れちまうんだから敵わない、これが惚れた弱みってやつだろうか

困ったもんだ



「好きだ」



手前のことが



「じゃあまた、珈琲差し入れしますね」


とか何とか云ってる手前は、やっぱり何にも判ってないらしく

こんな巫山戯た揺さぶりにも気付かない様子


深く溜め息を吐いて、大きく頭を抱えたくなるのを堪えて



「おう、楽しみに待ってる」



そんな月並みの定型文で笑って答えた


と同時に、俺たちの部屋がある階で止まりドアの開いた昇降機(エレベーター)、その先には夜景を望む廊下

降りて少し行けば、俺達を分かつ二つ並んだ部屋の扉はすぐそこだ




「何なら手前が淹れてくれても良いんだぜ」



彼女の部屋の前で、荷物を手渡して返す

空になった手をポケットに突っ込むと、片方にまだ温もりの残る缶があり、ふと頬が緩みかけた

油断は禁物だ



「私が淹れるより、買ってきた方が絶対美味しいと思いますよ?」



別れるのが惜しくて、冗談めかして云ったその実八割本気の言葉

手前はおかしそうに微笑んで、丁寧に受け流して扉の向こうへ帰っていった

手前の閉じた扉の前から、ゆっくり自分の部屋に足を向けて思う



ハッ、まさか

手前の淹れた珈琲なら




「世界一美味いに決まってる」




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(プロフ) - 完結おめでとうございます!鼻血が出過ぎてぶっ倒れる所でした(笑) 推し尊い…… (2019年4月3日 0時) (レス) id: 381002261f (このIDを非表示/違反報告)
まめ(プロフ) - 完結おめでとうございます!キュンキュンが止まりませんでした。ありがとうございます! (2019年4月2日 16時) (レス) id: 4d7fcc5e30 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 完結おめでとうございます。いいお話でした。 (2019年4月2日 15時) (レス) id: 1bfa3e637e (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 更新されてる?( ☆∀☆) (2019年2月9日 10時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - あぁ、、、推し(中也)が尊い、、、 (2019年2月9日 9時) (レス) id: c6be9b3184 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:どんぐり | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年3月21日 23時

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