【後日談】或る日の夜 ページ50
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「ねえ、Aちゃん」
どき、と心臓が跳ねる
彼の晩酌を眺める私に訪れたのは、申し分のない優美な笑みと、あざとく声音を甘くした呼び掛け
___それは " 二人の時間 " が始まる合図
「ふふ、あのね、私、……酔っちゃった」
太宰さんがおもむろに呟いたのは、私の耳元へその唇を寄せてのことだった
「え、と……、太宰さん……?」
「Aちゃんが隣に居ると、何だかお酒が進んじゃってさあ」
見え透いた嘘だ
だからって落ち着いては居られない、逃げる暇もなく体をソファへ沈められるのはものの一瞬のことで
目の前にはほら、妖しい笑み
「酔ったから変なことしちゃっても仕方ないよね」
彼が望むものは、すぐに判った
「……、ちょっとだけ、ですからね」
「じゃあ、しんどくなったら名前を呼んでよ、そしたら離してあげるから」
そんな言葉の後、遠慮なく唇を重ねられる
頭の後ろを緩く支える手さえも、それでいて私を逃がす気はないようだ
吐息が零れるのすらも惜しくて
だんだん薄くなる酸素が、口付けに支配される時の流れを体現していて
そろそろ、太宰さん、って一言
呼びたくなっても、素知らぬ振りで隙を見せる気配のないそれはつまり
「しんどかったらちゃんと呼びなよ、じゃないと私」
___ " 止まらなくなるからね "
そう云う割には、今度こそと思っても、呼ぶための呼吸も間も与えてはくれない
ああ、でも別に
彼が止まらなくても困りはしないし、止めなきゃいけない理由はないし
むしろ___止めないで、なんて
「っ……」
恥ずかしくって云えはしない、だからこっそり呼ぶのを諦めたのに
すると今になって顔が一旦離されて
「……ああ、そういうこと」
何をどう捉えたのか、私を見下ろす瞳が愉しげに細められる
なら、と何故か彼は手近なお猪口を手にして、私を見つめながら優しく微笑んで
「君も酔ってしまえば良い」
その中身を口に含んで、そのまま二度目の口付けを落とした
さっきよりも深く重なり合う吐息の狭間に、少しのお酒の匂いが香る
「次はどうしようか?」
わざとらしく覗き込んでくるのは、意地悪な優しさというものだ
顔が熱く赤らむのが自分で判って、不貞腐れて彼から目を外そうとしても
「ごめんね、聞き方を変えるよ」
ずるいこの人には敵わない、いつまでも
「Aは、私にどうされても良いよね?」
私が頷くこと、知ってるくせに
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カズハ(プロフ) - 太宰さんの言葉選びが最高すぎてキュンキュンしました!!ありがとうございます!! (8月7日 3時) (レス) @page50 id: a9129a72cb (このIDを非表示/違反報告)
カカオ - すみません。「 やきもち日和」のパスワードは何ですか? (2018年6月8日 0時) (レス) id: bcda3478dd (このIDを非表示/違反報告)
神羅°(閲覧専用)(プロフ) - 最高です!!太宰さんがかっこよすぎてキュンキュンしちゃいました(歓喜)ありがとうございますw (2018年3月18日 1時) (レス) id: 7fad23618c (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 太宰さんかっこよすぎて、キュンが止まりませんでした!完結おめでとうございます! (2018年3月4日 1時) (レス) id: fe3c394919 (このIDを非表示/違反報告)
サッピー(プロフ) - この話最高でした!もう一途な太宰さん最高!ついつい顔がにやけてしまいました!完結おめでとうございます!! (2018年2月16日 12時) (レス) id: d2c3ca49e1 (このIDを非表示/違反報告)
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