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すぐ目の前で微笑む太宰さんに、胸だけはどうしても正直に音を立てて騒いだ



「今日も美味しそうだね」

「べ、別に、普通です……」



それが、どうかバレないように

太宰さんには一口もあげませんから、って、お弁当を彼から隠すようにそっぽを向いて箸を進める

わざとらしく不機嫌な空気を見せ付けて、視界になんて入れないように

太宰さんなんて知らない振りを





「どうしてそんな意地悪するのかな?」





させてくれなくて、胸が跳ねる

声音はいつもと同じように、優しくて柔らかかった

なのに、私の手首を掴む手がぎゅっと痛くて、私の頬を挟んで上を向かせる手も強引で

無理やり合わされた鶯色の瞳は、ちっとも優しくなんてなかった



「ねえ、卵焼き、欲しいなあ」



そんな云い方しておいて、私に拒否権を与えるつもりはほんの一ミリだってないくせに

触れる太宰さんの体温と、目の前のその綺麗過ぎる笑みに、それでも私は目を逸らして抵抗する




「こ、これは、私の昼食です」

「それにしては、毎日量も多いし、私の好きな物ばっかりだけれど?」

「そんなこと……」

「ない、って云えるかい?」




抵抗したところで、こんな風に

太宰さんを前にしては、無駄なものへと成り下がってしまって、いともあっさり片付けられるのだけど



「ほら、早く食べさせてよ」



太宰さんの手が私の手を誘導して、追い討ちを掛けるように言葉が降ってくる

ああもう、どうして

どうしてこの手は、云われるがままに、お箸で卵焼きを挟んでしまうのだろう

そしたらこうやって、そのまま強制的に太宰さんの口元へ運ばれたって文句云えないのに




「……うん、美味しい」




ひとまず満足そうな太宰さん

だって、いくら誘導されようとも、最後の最後で卵焼きを掴む選択をしたのは私自身なのだから

選択をさせられた、なんて主張は、ここでは通じないのだから





「だ、太宰さんの莫迦……!」




悔しいのか、恥ずかしいのか、怒ってるのか、それともやっぱり好きなのか

複雑過ぎる胸の動きは、もう私自身にも判らない

何か云い返したくて絞り出した言葉がそれだった




「うーん、莫迦と云われるような真似をした覚えはないのだけど、一応云い訳でもしておこうか」




そんな私とは相反して、まるで余裕を弄ぶようにも見える太宰さんは

相変わらずの笑みを浮かべて囁くのだ




「先に意地悪したのは君の方、だろう?」




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カズハ(プロフ) - 太宰さんの言葉選びが最高すぎてキュンキュンしました!!ありがとうございます!! (8月7日 3時) (レス) @page50 id: a9129a72cb (このIDを非表示/違反報告)
カカオ - すみません。「 やきもち日和」のパスワードは何ですか? (2018年6月8日 0時) (レス) id: bcda3478dd (このIDを非表示/違反報告)
神羅°(閲覧専用)(プロフ) - 最高です!!太宰さんがかっこよすぎてキュンキュンしちゃいました(歓喜)ありがとうございますw (2018年3月18日 1時) (レス) id: 7fad23618c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 太宰さんかっこよすぎて、キュンが止まりませんでした!完結おめでとうございます! (2018年3月4日 1時) (レス) id: fe3c394919 (このIDを非表示/違反報告)
サッピー(プロフ) - この話最高でした!もう一途な太宰さん最高!ついつい顔がにやけてしまいました!完結おめでとうございます!! (2018年2月16日 12時) (レス) id: d2c3ca49e1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:どんぐり | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年8月16日 17時

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