検索窓
今日:36 hit、昨日:58 hit、合計:817,840 hit

38 ページ38

·



「もちろん良いですよ!」

「助かるよ、賢治君は力持ちだからね」



二人の声が遠くに聞こえて



「終わった後に何か美味しい物でも奢ろう」

「わーい! 僕、頑張っちゃいますね!」




一歩、二歩、と後ずさった

そんな私を他所に、応接間では会話が続く

引っ越しって、 一週間後って、それってつまり、太宰さんがお隣さんじゃなくなるってことだろうか

同じ道を辿って出社したり帰宅したり、毎朝隣の部屋を訪ねては度々困らされたり

いつでも気軽に、大好きな太宰さんに会えたり



____一週間後には全部、出来なくなってる



頭ではすぐにそう理解出来た、けれどそんなの信じたくなんかなくて

胸の奥から込み上げる暗いもやもやが、矛先を見つけられずに涙となって溢れた







「……頂きます」


涙を乾かしたくて、出たのは風の吹き流れる屋上

その出入口からも陰になった隅っこで、一人昼食を広げて手を合わせた


___寂しさ、だった

ぐちゃぐちゃでまとまらない今の気持ちを、最も大きく占めるのは取り留めのない寂しさ


会えなくなる訳でもないのに

ましてや、恋人な訳でもないのに


太宰さんが隣に居ることに、どこか特別さを感じていたのかもしれない




「隣って云ったって、家が隣ってだけなのに」




食べても食べても減らないお弁当

お腹はかなり膨れてるのに、胸に穴の空いたような虚無感で下手くそにでも誤魔化して、食べる手は止めなかった



「____え、」



誰かが、私に影を作るまでは




「こんなところに居た」



呆れるほどの間の悪さで、その人は現れた

私が彼の声を聞き間違える筈なくて、顔を上げなくても誰だかはすぐ判った

ただし顔は、上げないんじゃなくて、上げられないのだけれど



「与謝野さんに君が私を探していたって聞いてね、なのに私の方が探したじゃないか」




探したというのは本当だろう、ここは屋上の中でも人目につかない物陰だから

それを聞いてちょっぴり胸の鳴りが軽くなる私は何て現金な奴なんだろう

でもそれと口が素直になるのとは話が別で



「もう用事はなくなりました」

「そう? でも私はあるよ」

「何の用ですか」

「君とお昼を過ごすって用事」



私は冷たくあしらってしまったのに

返事を待つことなく、太宰さんがにこやかに私の向かいに座り込むのだから困り果てる

前にもこうして、屋上でお昼を共にしたっけ

あの時は思ってもみなかった


____こんなに好きになるなんて




·

39→←37



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (780 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1380人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

カズハ(プロフ) - 太宰さんの言葉選びが最高すぎてキュンキュンしました!!ありがとうございます!! (8月7日 3時) (レス) @page50 id: a9129a72cb (このIDを非表示/違反報告)
カカオ - すみません。「 やきもち日和」のパスワードは何ですか? (2018年6月8日 0時) (レス) id: bcda3478dd (このIDを非表示/違反報告)
神羅°(閲覧専用)(プロフ) - 最高です!!太宰さんがかっこよすぎてキュンキュンしちゃいました(歓喜)ありがとうございますw (2018年3月18日 1時) (レス) id: 7fad23618c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 太宰さんかっこよすぎて、キュンが止まりませんでした!完結おめでとうございます! (2018年3月4日 1時) (レス) id: fe3c394919 (このIDを非表示/違反報告)
サッピー(プロフ) - この話最高でした!もう一途な太宰さん最高!ついつい顔がにやけてしまいました!完結おめでとうございます!! (2018年2月16日 12時) (レス) id: d2c3ca49e1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:どんぐり | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年8月16日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。