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「もちろん良いですよ!」
「助かるよ、賢治君は力持ちだからね」
二人の声が遠くに聞こえて
「終わった後に何か美味しい物でも奢ろう」
「わーい! 僕、頑張っちゃいますね!」
一歩、二歩、と後ずさった
そんな私を他所に、応接間では会話が続く
引っ越しって、 一週間後って、それってつまり、太宰さんがお隣さんじゃなくなるってことだろうか
同じ道を辿って出社したり帰宅したり、毎朝隣の部屋を訪ねては度々困らされたり
いつでも気軽に、大好きな太宰さんに会えたり
____一週間後には全部、出来なくなってる
頭ではすぐにそう理解出来た、けれどそんなの信じたくなんかなくて
胸の奥から込み上げる暗いもやもやが、矛先を見つけられずに涙となって溢れた
「……頂きます」
涙を乾かしたくて、出たのは風の吹き流れる屋上
その出入口からも陰になった隅っこで、一人昼食を広げて手を合わせた
___寂しさ、だった
ぐちゃぐちゃでまとまらない今の気持ちを、最も大きく占めるのは取り留めのない寂しさ
会えなくなる訳でもないのに
ましてや、恋人な訳でもないのに
太宰さんが隣に居ることに、どこか特別さを感じていたのかもしれない
「隣って云ったって、家が隣ってだけなのに」
食べても食べても減らないお弁当
お腹はかなり膨れてるのに、胸に穴の空いたような虚無感で下手くそにでも誤魔化して、食べる手は止めなかった
「____え、」
誰かが、私に影を作るまでは
「こんなところに居た」
呆れるほどの間の悪さで、その人は現れた
私が彼の声を聞き間違える筈なくて、顔を上げなくても誰だかはすぐ判った
ただし顔は、上げないんじゃなくて、上げられないのだけれど
「与謝野さんに君が私を探していたって聞いてね、なのに私の方が探したじゃないか」
探したというのは本当だろう、ここは屋上の中でも人目につかない物陰だから
それを聞いてちょっぴり胸の鳴りが軽くなる私は何て現金な奴なんだろう
でもそれと口が素直になるのとは話が別で
「もう用事はなくなりました」
「そう? でも私はあるよ」
「何の用ですか」
「君とお昼を過ごすって用事」
私は冷たくあしらってしまったのに
返事を待つことなく、太宰さんがにこやかに私の向かいに座り込むのだから困り果てる
前にもこうして、屋上でお昼を共にしたっけ
あの時は思ってもみなかった
____こんなに好きになるなんて
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カズハ(プロフ) - 太宰さんの言葉選びが最高すぎてキュンキュンしました!!ありがとうございます!! (8月7日 3時) (レス) @page50 id: a9129a72cb (このIDを非表示/違反報告)
カカオ - すみません。「 やきもち日和」のパスワードは何ですか? (2018年6月8日 0時) (レス) id: bcda3478dd (このIDを非表示/違反報告)
神羅°(閲覧専用)(プロフ) - 最高です!!太宰さんがかっこよすぎてキュンキュンしちゃいました(歓喜)ありがとうございますw (2018年3月18日 1時) (レス) id: 7fad23618c (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 太宰さんかっこよすぎて、キュンが止まりませんでした!完結おめでとうございます! (2018年3月4日 1時) (レス) id: fe3c394919 (このIDを非表示/違反報告)
サッピー(プロフ) - この話最高でした!もう一途な太宰さん最高!ついつい顔がにやけてしまいました!完結おめでとうございます!! (2018年2月16日 12時) (レス) id: d2c3ca49e1 (このIDを非表示/違反報告)
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