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「__えっと、それで」
二人前の蟹入り蕎麦を囲って、テーブルに向かう私と新しい隣人、改め、太宰さん
頂きます、と勢い良く手を合わせた後、ズルズルと麺を吸い込む太宰さんに、一息吐いて口を開いた
「
思ってもみない出来事の連続で、まだこんな基本的なことも聞けていなかった
「よくぞ聞いてくれたね」
「あ、やっぱり良いです」
「おや、どうしてだい」
だって、私が質問を投げ掛けた時の、太宰さんの
何となく、すごく嫌な予感が過ぎった
けれど、それが役に立たつことはなくて、太宰さんは勝手に喋り始めるのだ
「以前住んでた家がね、燃えたのだよ」
「……そうですか」
「飲みかけの酒瓶もたくさんあったからね、それはもうよく燃えたさ」
「……そうですか」
ああ、お酒、もったいないな
なんて、そう冷静に思えるくらいには、このたった数分で感覚が麻痺していて
「マフィアに襲撃された、とかですか?」
一応聞いてみれば
「いいや、私の不注意さ、夏だから家の中で花火をしようとしたらね」
とのことである
そうだ、太宰さんって突拍子もない人だった、なんて私は改めて思い出す
思わず漏れた溜め息の反動で蕎麦を啜った
「国木田君がこれまでになく怒っていたよ」
「……でしょうね」
国木田さん、胃の方は大丈夫ですか
その苦労を思いやっただけの私ですら、こんなにも痛むのだけれど
と、例の如く太宰さんに振り回されている、眼鏡の理想主義者に思いを馳せていたら
「でも私は後悔してないよ、むしろ嬉しいかな」
「何故ですか?」
「君の隣に住めることになったからさ」
むせてしまった
___今、なんて?
胃への道筋を見失った蕎麦のお陰で、必死に咳き込む私の背中を、太宰さんがさすってくれた
もう、蟹蕎麦なんて二度と食べるもんか
「いやね、もっと探偵社に近い物件は、他にも在ったのだけれど」
私が落ち着いたのを確認すると、太宰さんは変わらぬ調子で、話の続きを始めた
ああでも、少し声色が変わった気がする
気の所為じゃない筈だ
「君の住むアパート、しかも隣の部屋だなんて、これ以上の優良物件はないだろう?」
何が云いたいんですか、太宰さん
貴方の言葉は一体何を意味しているんだろう
「私はずっと、君が好きだったからね」
落ち着いた呼吸が今度は止まりかけた
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カズハ(プロフ) - 太宰さんの言葉選びが最高すぎてキュンキュンしました!!ありがとうございます!! (8月7日 3時) (レス) @page50 id: a9129a72cb (このIDを非表示/違反報告)
カカオ - すみません。「 やきもち日和」のパスワードは何ですか? (2018年6月8日 0時) (レス) id: bcda3478dd (このIDを非表示/違反報告)
神羅°(閲覧専用)(プロフ) - 最高です!!太宰さんがかっこよすぎてキュンキュンしちゃいました(歓喜)ありがとうございますw (2018年3月18日 1時) (レス) id: 7fad23618c (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 太宰さんかっこよすぎて、キュンが止まりませんでした!完結おめでとうございます! (2018年3月4日 1時) (レス) id: fe3c394919 (このIDを非表示/違反報告)
サッピー(プロフ) - この話最高でした!もう一途な太宰さん最高!ついつい顔がにやけてしまいました!完結おめでとうございます!! (2018年2月16日 12時) (レス) id: d2c3ca49e1 (このIDを非表示/違反報告)
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