検索窓
今日:21 hit、昨日:35 hit、合計:320,740 hit

06 ページ6

·




バタン、と部屋と廊下を隔てた扉

このビルで一番立派なそれは、首領の執務室に構えられたものだからである



「……云える訳ねえだろ」



帽子を深く被り直しながら、見張りの黒服の奴らにも届かぬほどの、至極小さな声で呟いた

誰にでもなく、否、強いて云うなら、扉の向こうで首領と面会中の彼奴に向けて



「本当はあの時、俺も手前に見惚れてたとか、云える訳ねえよ」



ってか、俺の記憶が正しけりゃ、俺の方が先に彼奴に見惚れてたんだ

首領を前にしての静かな表情、伏せた目元が綺麗で何処となく魅了されて

そんな変な気を紛らわすために、俺は一心に首領を見上げ続けた

だから後々、彼奴が俺を見つめてきていることに気付いた時は



「あんな一言しか云えねえなんて、俺も餓鬼だな」



さっきだってそうだ

もっと上手く声を掛けられなかったもんか

溜め息をお供に、階下を目指して、エレベーターに乗り込んだ






一階、エントランス

降り立った其処は、マフィアの構成員も然り、裏社会に出入りする奴らで溢れ返っていた

その中を突っ切って進む俺に、奴らは道を譲り道を開ける

マフィア幹部って肩書きは便利なもんだ

と、そんな中だった




「ナカハラの奴、今首領と面会中だってよ」




なんて声が耳に届いたのは

思わず反応し聞き耳を立てる俺は、不自然に見られぬ程度に足を進めるのを遅めた

理由は勿もちろん、ナカハラはナカハラでも、今、首領と面会中だと云う『ナカハラ』___あの女の名が聞こえたから

だがしかし



「___まじかよ」

「そうみたいだぜ、だって__」



遠巻きに聞こえるひそひそ話は、盗み聞こうとするにはいささか不向きで

くそ、煩わしい

問い質して訊いてやりゃ良いんだ

ってな結論に至り、立ち止まって辺りを振り返ってみたけれど、声の主と思われる奴らはもう居なかった




「……俺、彼奴のこと何も知らねえのな」




また足を進めながら、小さく独り言を零す

そりゃあ二度顔を合わせただけの関係だもんで、当たり前っちゃ当たり前なんだが

謎に包まれた彼奴の身の程

存在が遠のいた気がした反面、もっと深く彼奴のことが知りたい、なんて

興味も強く湧いてきた




·

07→←05



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (609 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
678人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
- 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:どんぐり | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年9月13日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。