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バタン、と部屋と廊下を隔てた扉
このビルで一番立派なそれは、首領の執務室に構えられたものだからである
「……云える訳ねえだろ」
帽子を深く被り直しながら、見張りの黒服の奴らにも届かぬほどの、至極小さな声で呟いた
誰にでもなく、否、強いて云うなら、扉の向こうで首領と面会中の彼奴に向けて
「本当はあの時、俺も手前に見惚れてたとか、云える訳ねえよ」
ってか、俺の記憶が正しけりゃ、俺の方が先に彼奴に見惚れてたんだ
首領を前にしての静かな表情、伏せた目元が綺麗で何処となく魅了されて
そんな変な気を紛らわすために、俺は一心に首領を見上げ続けた
だから後々、彼奴が俺を見つめてきていることに気付いた時は
「あんな一言しか云えねえなんて、俺も餓鬼だな」
さっきだってそうだ
もっと上手く声を掛けられなかったもんか
溜め息をお供に、階下を目指して、エレベーターに乗り込んだ
一階、エントランス
降り立った其処は、マフィアの構成員も然り、裏社会に出入りする奴らで溢れ返っていた
その中を突っ切って進む俺に、奴らは道を譲り道を開ける
マフィア幹部って肩書きは便利なもんだ
と、そんな中だった
「ナカハラの奴、今首領と面会中だってよ」
なんて声が耳に届いたのは
思わず反応し聞き耳を立てる俺は、不自然に見られぬ程度に足を進めるのを遅めた
理由は勿もちろん、ナカハラはナカハラでも、今、首領と面会中だと云う『ナカハラ』___あの女の名が聞こえたから
だがしかし
「___まじかよ」
「そうみたいだぜ、だって__」
遠巻きに聞こえるひそひそ話は、盗み聞こうとするにはいささか不向きで
くそ、煩わしい
問い質して訊いてやりゃ良いんだ
ってな結論に至り、立ち止まって辺りを振り返ってみたけれど、声の主と思われる奴らはもう居なかった
「……俺、彼奴のこと何も知らねえのな」
また足を進めながら、小さく独り言を零す
そりゃあ二度顔を合わせただけの関係だもんで、当たり前っちゃ当たり前なんだが
謎に包まれた彼奴の身の程
存在が遠のいた気がした反面、もっと深く彼奴のことが知りたい、なんて
興味も強く湧いてきた
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ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
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