【番外】最適解とは ページ42
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「リンタロウきもい」
ヨコハマの或る夜、一際高い場所で明るく灯った一室にて、甘いクリームに口元を綻ばせながら無邪気に云い放つ少女が一人
少女は息をするように言葉を発した後、また目の前の甘味に舌つづみを打ち始めた
「うふふ、エリスちゃんは可愛いよ」
同じ部屋の向かいの席には、そんな様子を終始眺め表情を緩ませる男が一人
その一見くたびれた白衣のうちには、相反して高級そうなスーツがひっそり顔を覗かせており、男の腰掛ける椅子は殊更重厚感に溢れていた
「ところで__、運命というものは、存外道端に転がっていたりするのかもしれないねえ」
少女曰く、今宵の男は一段と頬が緩く、とても見ていられないそうな
つまるところ男は、前触れもなく運命なんてものを語り出すほどには上機嫌だった
そんな男の表情がいかなるものか、甘味に集中する少女の知るところではなかったが
「リンタロウが口に出すと、運命も嘘っぽく聞こえるわ」
「えええ、 私はエリスちゃんとの運命をいつだって信じているよ?」
「リンタロウきもい」
冒頭と一語一句変わらぬ一言をもって、強制的に終わらされる会話
「そんなあ、エリスちゃあん」などという男の嘆きを少女の耳は受け付けていない
「エリスちゃん辛辣だなあ……でもそこも好き」
ひとしきり喚いた男は、しばらくして何とか気を取り直し立ち上がった
足を進めた先は窓辺、もう何度目をやったか判らない夜景に、懲りずに視線を落とす
「いやあ、でも、だってねえ」
少女が聞いていないのを知ってか知らずか、あるいは独り言のつもりなのか、不意に男が言葉を零す
「同じ苗字の二人が、偶然鉢合わせるだけでなくお互いに見惚れ合うなんて、何か不思議な縁を感じても無理ないよねえ」
それはつい先程目の当たりにした出来事
男が少女のために、洋服を買い込み甘味を買い占め、散々遊びどころを転々とした帰りのことだった
ことを思い出しがてら、何やら思案する男の笑みが少し違う色へと舵を切っていく
「そうだ、二人をくっつけてしまおう」
さすればマフィアも安泰、ついでに欲しい人材も手に入り、二人も幸せになるのだから悪いことは何一つない
ああ、何とも合理的だ、と
そして議題は男の中で完結する
「エリスちゃん! 私と一緒にキューピッドをやらないかい!」
「リンタロウきもい、何回も云わせないで」
弾き出された最適解によって
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ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
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