【文スト】ナカハラですが

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「あ、あらーナカハラさーん……またお会いしましたねーアハハ……」



早口、上ずりまくりの声、変な口調

しどろもどろの三コンボを以て、ナカハラさんに精いっぱいの応対をする私

対してあちらは



「そうだなあ、確か前に会った時は、手前が俺に見惚れてたんだっけか」



ああ、実に良い顔をしていらっしゃる

わざとらしく帽子を抑えたりなんかして、私を覗き込みながらにやにやして、さながら悪戯少年のくせに

全ての仕草が様になってしまうその姿

む、か、つ、く！



「いつから……声を掛けて下されば……」



強ばる表情筋を総動員して、何とかナカハラさんに笑顔を見せ返す

相変わらず片言のそれは、全く以て心にない台詞だ




「手前が妙な物真似してるところを通りすがってな」



そんな前から居たんかい！

危うく突っ込みかけたのを呑み込み、強い視線に牽制の意を込めれば



「俺から帽子ぶん取って見下ろすなんざ、手前には一生無理だチビ」



ばっちり聞かれていた悪口

ゆるりと莫迦にしたように上がるその口角が、憎たらしいことこの上ない

しかし何だかんだナカハラさんよか私の方がチビであるのもまた事実で

よって私はここに誓う、いつか帽子だけでもぶん取ってやることを



「って云うか、見惚れてなんかないってば！ ぼーっとしてただけ！」

「へえ？ なら首領にも訊いてみっか」

「ちょ、それは駄目！」



「じゃあ認めんだな？」と笑いを含んだ声は、見事に私の負けず嫌い精神をくすぐってくれる



「だ、だいたいそんな思い込みするなんて、ナカハラさんこそ私を見てたんじゃないんですか？」

「はァ？ 俺は手前が、首領がナカハラって呼んだのに気付かねえから視線を送ってやったんだろ」



売り言葉に買い言葉とはこのこと

視線を送ってやったって何ですか、普通に『俺も見てた』って云えば良いものを

私とナカハラさんの、睨み合いが始まった




「そんなのナカハラさんだってナカハラじゃん！」

「あ"ァ？ 手前もナカハラだろうが」

「だから、どっちのナカハラか分かんなかったの！」

「ッだーもう！手前、ナカハラナカハラってうるせえんだよ！」




もはや途中から争点は見失われた

とりあえず負けたくないがあめに、お互いが終わらせぬ云い合いと化している

くだらないナカハラ合戦、制したのは




「君たち、私の部屋の前で随分と仲が良いねえ」




いつの間にやらそこに立っていた、首領だった




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