tk × in短編集② (ページ9)

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side yuya

「王子、いつまで外を見つめておられるのですか。もうすぐお昼食の時間です。」

「…あぁ」

「……この間の嵐で、海がお嫌いになったかと」

「嫌いになんて…なあ、この間、俺を助けてくれた女の子の話なんだけど」

「またその話ですか。あの場には誰もおりませんでしたと何回も…」

「…でも、何回考えても分からないんだ。俺が落ちたのはもっと沖の方で、流れを考えたら絶対に岸に辿り着いたりしない。あの子が助けてくれたから…」

絶対にいたのに。
あの時俺を心配そうに見つめていた瞳が、頭から離れないというのに。

「…王子。3日後に隣国の姫君とのお食事会があることを、お后様からも聞いていますでしょう。くれぐれもその事、姫君の前でお話するような事だけはやめてくださいね。」

念を押すように顔を近づける。16歳を迎えた俺は、父と母が決めた結婚相手を妃に取らなければいけない。
その事は、とうに受け入れていたはずなのに

「…少し、外に出てくる。飯は先に済ませておいてくれ」

「…かしこまりました。」

風に当たりながら砂浜を歩いていると、ふと何かが打ち上げられているような影を見つけた。
イルカでも打ち上がったかもしれないと思い近付いて行く。

近付くうちに、それはどうやらイルカではないということに気がつく。
目を凝らし、人間であると分かり足を早めた。

「おい！君…大丈夫か！」

___体格や顔つきから察するに、俺と同じくらい…の、女の子…いや、男…？

海藻が身体に絡まり気付かなかったが、彼女…もとい、彼は服を何も身につけていなかった。
肩を揺らすと、微かに目を開ける。やはり女の子のような可愛らしい顔をしていた。

「どうして…何があった？」

どん、と響く衝撃で、彼が胸に飛びついて来たことに気付く。よほど怖い思いをしたのだろうか。
軽く抱き返すと、自分よりかなり細い腰骨や肩周りにまた驚いた。顔も女っぽいと思ったが、骨格まで女のようだなんて。

「とにかく、俺の部屋に来ればいい。服も風呂も好きに使わせてあげるから。もちろん食事もね。」

すると、驚いたようにこちらを見上げる。
うるうると濡れた瞳は、なんだか心臓に悪いとさえ思った。

城に連れて帰り風呂に入れ、着替えさせる間も、彼は何も言わなかった。
時折隣を歩く姿が苦しそうに見えるので声をかけても、次の瞬間には笑顔で首を振る。

「何か話したくない事情があるなら、俺も深くは聞かないから」

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