tk × in短編集② (ページ3)

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「…全部、捨てちゃった」

髙木の口の端が、悪戯に笑う。

「え…」

「要らないから。なぁんにも。…去年のガトーショコラも、その前のチョコバナナマフィンも、その前のティラミスも…その前は、ルタオのチョコだったかな。…俺それ以外、食べてない」

…ちょっと待って、それってさ…

「…ぜんぶ、覚えててくれてるの？」

「ん？」

「おれの、あげたチョコ…ぜんぶ」

「いや、当たり前じゃん！覚えてるよ。全部。」

髙木の手が優しく俺の髪を撫でる。

「…じゃあ、さ、あれは？…ブラウニー。ハートのボックスに入ってたやつ」

「え…それ伊野尾くんから？」

「ううん、髙木が一時期付き合った子が、そのちょっと前のバレンタインであげてたやつ。BESTで茶化したじゃん」

「……あー…貰ったのは、覚えてる。けどそんな、どんなのだったかとか覚えてない」

ケロッとした顔で、随分残酷なことを。
その女の子だって一生懸命作って、勇気を振り絞って渡したんだろうに。
でも、その子に同情してやるような心の広さは、生憎持ち合わせていない。
その証拠に、どうやってもニヤつく口元を隠し切れない。
愛しいその首元にぎゅっと抱きつき、頬を擦り寄せる。

「うはっ、苦しいよ伊野尾くん」

「…おれも、苦しいもん。」

「えぇ？」

「好きすぎて、苦しすぎて、嬉しすぎて、溶けちゃいそう」

俺がチョコレートだったら。
きっともう、ドロドロに溶けて、手に持てやしない。

「…それでも髙木は、全部食べてくれるもんね」

ドロドロになった俺を、指で掬いとって、爪の間に入った分まで、綺麗に平らげてくれるでしょう？

「え？」

「なぁんでもない」

「なに(笑)」

「重いね、おれたち。」

「…ん。激重。」

見つめ合う視線は、ぐつぐつと熱い。
どちらからともなくキスを交わす。息をするタイミングも見失うような、深い深いキス。

「っ…ふ…ぁ、たかき、」

「ん…？」

今年もね、貴方だけの特別なチョコレートを、俺だけが、貴方にあげる権利を持ったそのチョコを、あげるから

「今年は、なんだと思う？」

END

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※食べ物を粗末にしてはいけません
※人から頂いたものはきちんと食べましょう